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ターニャの言葉にファビエンヌは目を丸くした。
「御加護が無い方が発展する?そうなの?でも今までずっとあった御加護が無くなると言われるとなんだか心配だわ」
ターニャは自分の言葉に舌打ちでもしたい気分になった。加護がどんなものか、加護のない社会がどうなるかなど、ターニャが語るべきことではない。ましてや王太子から方針を聞いたわけでもない。王族の思惑から外れているかもしれないことを言うべきではない。だからファビエンヌの不安の方に話題の焦点を当てることにした。
「確かに今までずっとあったと言われているものが無くなると言われてしまうと不安よね」
「あったと言われている、ってターニャは御加護を信じてないの?御加護を受けているのに?」
そう、その辺りの認識もすり合わせておきたかった。イコによるとターニャとイコの間の絆と、精霊様が村全体にかけている加護とは全く性質が違うものなのだそうだ。街には加護が無くても、ターニャのように精霊と絆を結んでいる者がいる限り、加護が無くなった、とは思えないだろう。でも、それでいいのかもしれない。きっと曖昧にしておいた方がいいこともあるだろう。
「村の暮らしと比べると、街では御加護を感じることが少ないから、本当に御加護があるのかしらと思ってしまうの。それに10年経ったからといってイコとの絆が無くなるとは思えないから、御加護が無くなると言われても、という感じなのよね。でも、詳しいことはこの建国祭が終わってからでないとわからないわよね」
「そうね。舞踏会も途中だし、ゆっくり話すのはまた後でね」
そう言ってこの時の話は終わった。
舞踏会の途中、王太子夫妻は2人で控室にやってきて、王太子妃だけが一時的に着替えに自室に戻った。王太子は自分の侍従に適当な用を命じ、自然に控室詰めのターニャと2人だけになった。
「発表のことは聞いたか?」
「御加護をだんだんと薄くし10年後には無くす、と」
「ああ。教会と相談してそう発表してもらった。精霊様はその後も見守っては下さるから、教会の役割もさほど変わらない。逆に精霊様の言葉を預かることができたということだから、権威付けになったろう。ヴェルムが精霊様との真の関係に気づきそうだったから、下手に公表される前に手を打てて、あちらも今回のことには乗り気だったな」
「あの、そのようなことまで私に話してくださって良かったのでしょうか」
「其方に話しておけば精霊様に通じる。もし何かお怒りをかうようなことがあれば早く教えてほしい。だからこのことに関しては其方にはなるべく正確に伝えておきたい。できれば精霊様が今日の発表についてどう感じられたかも知りたい」
なるほど、とターニャは納得した。ターニャを通じて精霊の意向を確認したいのだろう。
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