146
ジルとターニャの家族との面会は穏やかなものだった。決して歓迎されたわけではない。だが否定されたわけでもなかった。とても穏やかに
「よかったな」
「幸せになるのよ」
と言われただけだった。もしターニャが不遇で、助けを求めてきたのであればまた違ったのかもしれない。悪い方に。自分の意志で村を出たのだから、もう村に居場所はない。戻ってきたいなどと言えば不機嫌になったかもしれない。だが村を出て、その先で幸せにしているのならばその幸せを言祝ぐことに異存はない、そんな感じだった。これが精霊の加護なのだろう。親への挨拶という表向きの目的は十分に果たせたのだからそれで良しとしよう、そう思うのだった。
本来の目的であるエルヴィーラへの帰依はあっさりとしたものだった。ターニャが婚約が決まったから精霊様の祠に報告したいと言えば、村の者は当然のこととして祠まで連れて行ってくれた。そこで、
「私は今後エルヴィーラの子として生きていきます」
と言うだけだった。本当にそれだけでいいのか、とジルもターニャも疑問に感じたが、イコが
「これでジルもエルヴィーラの子になれた」
と言ったので、そうなのだ、と自分たちを納得させた。しばらくは本当にこれでいいのかと首をひねっていたが、ジルは
「言われてみれば何となく感じる空気が違う……か?」
と呟いた。イコは
「ジルはすごいね。感じられるんだ。人間になんてわからないと思っていたのに」
と言った。更に
「ここと王都は遠い。王都にもエルヴィーラの祠を建ててほしいんだ。ターニャは覚えているでしょう?あの河原にエルヴィーラの力の石がある。それをきちんと祀ってほしい」
と真剣な声で頼んできた。
「それは、確かに必要なことだと思うわ。でも王都に祠を建てるなんてかなり難しいわ。今の精霊教会に反することになるでしょうし」
「別に大々的に建てる必要はない。ジルの家の庭にでも祀ってくれればいい。必要なのは君たちとエルヴィーラがつながれる場所、というだけだから」
「それならまあ、伯父上の許可が必要ですが、何とかなるでしょう」
そうなると祠を建てることよりも、あの河原でエルヴィーラの力の石を探す方が大変なのでは、とターニャは思った。
こうして旅の目的を果たすことができたので、2人はまた真っ直ぐに王都に帰った。好天に恵まれ、予定よりも早く旅は進んだが、だからと言ってその分のんびりしていく、などということは性格的にできない2人だった。早く帰れるならば、早く帰ってやらねばならいことをしたいと考えるのだった。
感想ありがとうございました。返信できていませんがとてもうれしいです。
読んでいただきありがとうございます。




