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ジルとターニャはイコの同意を得られたら、正式に婚約の届を出すことにした。2人の気持ちは決まったが、やはり両方の親に挨拶をしてから正式な届を出したい、ということで周囲には根回しをした。そのためそれほど時間がかからずに2人そろって休暇をとることができた。
故郷への旅は出費を抑えた割には快適なものだった。
「当然でしょう。私が旅に加護を与えているのですから」
とイコは得意気に話した。
「これが精霊様の加護がある、ということなのですね……」
ジルが感心したように言った。ジルはターニャからイコのことを聞いて以来、『精霊』と言っていたのを『精霊様』と言うようになった。精霊に対する敬意を持つようになったというよりは、ターニャが大切にしているものを尊重する、という考えからだった。
だが、村へ行くことを決めた後、ちょうど取れた休暇と予定を合わせたかのような行商の旅の予定があって同行できるようになるとか、旅に出たら出たで、本来ならばガタガタ揺れるはずの荷馬車がほとんど揺れを感じないとか、旅の間必要以上の雨が降らないとか、旅に関してありとあらゆる幸運が続いていた。その幸運を実際に体験すれば、『精霊の加護』というものが迷信ではなく、本当のものなのだと考えざるを得なかったのだ。もちろん行商人もこの旅の幸運を喜んで
「まるで精霊のご加護があるようですなあ」
などと笑っていた。ジルも表面上はそれに合わせて笑っていたが、本当にそれがあると知っていると笑うことなどできない、と畏れのようなものを感じていた。
そんな平穏な旅を続け、ターニャとジルは無事に村まで着くことができた。事前に手紙を出したとしても手紙が着くのとターニャの到着とそれほど時間の差は無いだろうことから、手紙も出さずに来てしまった。村に着いた時、どのように出迎えられるのかターニャは不安だった。
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