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ターニャがヴァルド砦に来る前、ミレーネはどのような娘が来るのかいろいろな予想を立てていた。村の地味な生活から逃げたいだけの我儘娘の場合。将来を見据えて真剣に取り組もうとしている場合。ただ夢を見ているだけの愚かな子供の場合。様々な場合を考えたが、結局すべきことは変わらないというのが結論だった。厳格に接し、適切に褒める。それは砦の見習い兵士達と接するときと同じである。砦の教育施設的側面を思えば、街と異なり選択肢の少ない村の娘達をもう少し受け入れてもいいのかもしれないという考えも浮かんだ。が、それを考えるのは自分の仕事ではないとも感じられた。
実際にミレーネがターニャに会って一番に感じたことは、
『いい目をしている』
ということだ。一見、髪の色も目の色も地味であり、顔立ちも平凡でありながら、どこか目を引く感じがある。
『この娘はモノになる』
一目で感じた。何年もメイド長として女性奉公人を見、またヴァルド砦で多くの見習い兵士達を見てきた経験が、そう告げていた。
「あなたがターニャですね。私はヴァルド砦の奥向きを預かっているミレーネです。私達はあなたを歓迎します」
本当に歓迎しているのかと疑ってしまいそうなほど淡々とミレーネが告げた。甘やかされた子供であれば、それだけで萎縮してしまいそうだっが、ターニャは『歓迎する』という言葉に安堵した。村でマルクの学習を見学させてもらった時は『くれぐれも邪魔をしないように』と言われたのだ。言葉だけだとしても歓迎してもらえるというのはありがたかった。何より、ミレーネの態度には自分を厭う様子はなかった。砦にとって自分が予定外の奉公人であることを思えば、悪くない対応であろうと思われた。
「ターニャです。精一杯働きますのでよろしくお願いします」
「働かせて頂きますので、よろしくお願い致します、ですよ」
「…精一杯働かせて頂きますので、よろしくお願い致します」
「はい、よろしくお願いしますね、ターニャ。言葉づかいは気づいた時に直していきましょう。マナーは日々の生活の中で身につけて下さい。そのための時間をわざわざとることはありません。砦の女性は兵士全員分の洗濯と食事の準備をしています。その他に執務棟の掃除もあります。余計な時間は無いものと思いなさい。刺繍を学びたいと聞いてはいますが、着飾るための刺繍はここでは必要ありません。ただ、兵士達の肌着などに持ち主の名前を刺繍するという仕事があります。基本的な技術を身につけることはできるでしょう。」
そこまで一気に話すと、ミレーネはターニャをじっと見た。始めから厳しい態度をとってみたが、ターニャは萎縮した様子はなかった。ターニャにとって一日中働くことは当たり前のことである。仕事の中で刺繍ができるというのはうれしいことであった。
「はい、頑張ります!」
ブックマークありがとうございます!
大掃除しながら打ちました。投稿される時間までには終わりますように…。
皆様もよいお年をお迎え下さい。




