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「神官、ですか」
「ああ。教会で出家してしまうと結婚ができなくなる。そうすれば王位に就くこともできない。還俗してでも、と担ぎ出せるほど私は優秀ではない。よって兄上の邪魔にはならない」
ヴェルムは晴れ晴れとした表情でそう話した。
「あの、そう考えていることをどなたかに相談なり、話すなりされましたか?」
「いや、そう考え始めたのが最近なので、まだ誰にも言ってはいない」
最近どころか神官になると考えたのは先日、ユーゴに言われたことがきっかけである。神官になろう、と思ってから実は一日も経っていない。
「兄上の邪魔にならない方法、という視点から考えてみたのだ。普通に臣籍降下するだけでは駄目だと思ったからな。私は良くも悪くも平凡だ。いっそのこと悪逆非道とでも言われていれば、担ぎ出そうとする者もいなくなるのだろうが、私にはそれは無理そうだからな。他国に婿入りする手もあるが、今はそう都合のいい話もない。それならば今までの経緯からいっても出家するのが一番だ」
ヴェルムは苦笑してそう話した。
「それを私に話してもどうにもならないことはおわかりですか?」
「ああ。ようやくわかってきたよ。自分で考えるだけでは駄目だとね。自分の考えを周りにもわかってもらう努力をしないといけないのだとね。それをしないで『何故わかってくれない』と言っても、わかってもらえるわけがない。ましてや権力が絡んでいるんだ。きちんと自己主張しないといいように利用されてしまう。今までわからなかった自分が情けないよ」
「でも、今のうちに気づかれてよかったですね。学園生のうちであればまだ猶予がありますから」
「ああ、本当だ。今のうちに兄上にも相談をしないといけないな…」
「でしたら、王太子殿下の側近を目指している方に相談するといいと思いますよ。ご兄弟といえども直接お会いして相談するのは簡単ではないと思います。何かの折には確実に意思の疎通を図れるようにしておくべきです」
「本当に貴女には敵わない。精霊のことだけ相談するつもりだったのに、結局はこうして私自身のことを聞いてもらっている。本当に貴女には感謝しているんだ。私は試されていたのか、見限られていたのかわからないが、はっきりと言ってくれる人がいなくてね。何かまずいことをしてしまったのかな、とは何となく気づくんだが、なんでこんなことがわからないんだ、って目で見られていてね、どうしたらいいかわからなかったんだよ」
ターニャはヴェルムも一応気づいてはいたんだな、と思った。だが、
「何方かに訊けばよかったのでは?」
「訊いても『ご自身でお考え下さい』と言われるだけだったんだぞ」
「その後、考えても分からなかったから教えて欲しい、とは訊かなかったのですか?」
「……」
「訊かなかったのですね」
その辺りの詰めが甘いんだな、とターニャは思ったが、まあ今さらである。
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