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ヴェルムは早速ターニャに会いに行こうとした。科が違う相手に会う場合は昼食時に食堂で探すのが普通である。以前ミリムのことでターニャと会ったのも食堂だった。
だが3年目ともなると、皆が皆毎日食堂に来るわけではない。ヴェルム自身も週の半分以上は教会に行っている。ターニャも外交部へ行く日がそれなりにあるので、この日は会えなかった。
(ターニャは今日は来ないのだろうか。食堂に来ないとなると、誰かに訊いてみるか)
そう思い、周りを窺うとユーゴとサイモン、そしてファビエンヌとその友人が共に昼食をとっているのが見えた。彼らは学園の卒業研究として異なる領地ごとの特産品を取り入れた、フェンベルグの何か新しい名物を創れないかと考えていた。職人に実際に試作をしてもらい、さらにそれを評価してもらい、さらに改良して、という過程を考えると学生生活の残りの1年というのは決して長くはなかった。だから、昼休みにも昼食を取りながら打ち合わせを重ねていたのだ。もちろんそこまで明確に成果を出さなくとも卒業はできる。しかし、少しでも目に見えるような成果を出したい、と考える者がほとんどだった。
ヴェルムはそんな打ち合わせの場に、しかも対立派閥のトップと考えられている相手に、
「ちょっといいだろうか?」
と話しかけたのだ。ファビエンヌ達も含め、周囲の者も皆ヴェルムが何を言うのかと一瞬にして緊張が流れた。
「ヴェルム様、何か御用でしょうか?」
答えるファビエンヌの内心は、今さら何を言うつもりなのか、ふざけたことを言うようならばとことん応戦いたしましょう、と戦意を燃やしているのだが、顔だけはさすがというべきか、淑女の微笑みを浮かべているが、目が笑っていない。そして、相手のそんな様子をまったく気にしないのがヴェルムである。
「ターニャ様に尋ねたいことがあってね、ファビエンヌ様ならどこに行けば彼女に会えるか知っているだろう?」
ファビエンヌは不思議に思った。ターニャが戻ってきてからそれなりに時間が経っているのに、何故今頃?と。そこで率直にそのことを尋ねたところ、返ってきた答えが
「彼女が帰国していると、先ほど聞いたんだ」
ファビエンヌはあっけにとられてしまった。まさかそこまでヴェルムが情報に疎いとは思っていなかったため、思わず言葉が出てしまった。
「ターニャ様は三年次に上がる前から帰国されていましたが」
それに対して、ヴェルムは悪びれもせずに答えた。
「そうらしいね。それで、彼女はどこにいるんだい?」
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