131
外交のために学園外で活躍していたが、学園内では静かなものだった。
ターニャとしては学園に戻ればすぐにヴェルムから精霊様がらみで何か頼まれるのではないかと予想していた。しかし案に相違して、ヴェルムから話しかけられることはなかった。そうなれば身分の低いターニャの方から話しかけることはできないし、また必要もない。ターニャは学園での生活を楽しんでいた。
ヴェルムは学園の講義は必要最小限しか出ず、精霊教会の資料を調べていた。そこでわかったことは、現在の王家が300年程前、この土地を支配下においた時に以前から信仰していた『精霊の女王エルネスティーヌ』の力を分けてもらいこの地の教会に祀った、ということだった。だが、その力が根付かなかったのか、しだいに加護が薄れ、精霊への敬意も減っていったようだった。
(加護が薄れたから信じる者が減ったのか、信じる者が減ったから加護が薄れたのかは疑問だな。教会では確たる根拠もないままに加護が薄れたとは公表できまい)
ヴェルムはそのように考え、何故加護が薄れたのか、何らかの記録がないかと調べていた。加護が薄れた原因がわかり、それを解決すればまた精霊の加護を得られ、王権の強化につながると考えていた。王権を強化することに尽力すれば、王家のためになる。そうすれば王家の中で、ヴェルムも認められるだろうと考えていた。いや、政治や軍事の面では秀でたところのないヴェルムが認められるにはこれしかない、と思いこんでいた。が、教会の資料からはその原因はわからなかった。
資料による調査に限界を感じ始めたヴェルムは気分転換も兼ねて学園の講義を受けに来た。学園に来ても話しかけてくる友人がいるわけでもない。自分が話しかけるのを待つために寄ってくる者も今日はいない。講義が始まるのをぼんやりと待つ間、近くの席でされている噂話が耳に入ってきた。
「ターニャ様、留学から戻ったらまた最上位ですよね」
「ええ、でもあの方、平民ですよね。学園に入る前から何処かで働いてらしたせいで1番になったとか。でも今は働いているわけでもないのに、また1番でしょう?やはり爵位の順という訳ではなかったのですね」
「騎士科でも騎士見習いだった平民の方が上位だと聞きますから、どの科も同じだったのですね。淑女科だけ爵位順だなんておかしいと思っておりましたの」
「これまでは見習いをしながら学園に来た女性はいないということかしら?」
この話をしていた女生徒達は、侍女見習い等として働いている向学心ある女性の進学について考え始めた。だがヴェルムがわかったのは、ターニャが戻ってきている、ということだけだった。
読んて頂きありがとうございます。




