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ターニャはフェンベルグの学園ではあまり人気は無かった。というのも、淑女科での第一位にいるものの爵位が高くないことはすぐに知れたからだ。半年も経てば、目端の利く者は
(どこか国の機関で働いていたんだな)
と見当をつけていた。もっとも爵位は低くても貴族だろうとは思われるだけの教養やマナーを身につけてはいたのだが、ヴェルムとのやり取りで平民だということまでわかってしまっている。そうなると学園ではターニャと同等の学力を身につけ、なおかつ高位貴族の令嬢がいるわけで、高位貴族の令息はそちらをまずは狙う訳である。また、自分の学力で王宮に就職しようという下位貴族出身の者ではターニャはライバルである。お互いに切磋琢磨していくうちに気が合って、などという展開になるだけの期間を過ごす前に留学してきてしまった。そんな訳でフェンベルグの学園ではターニャは男性とそのような話題に上がることもなかった。どちらかと言えばヴェルムと噂になりそうで慌てて逃げてきたとも言える。もっともそれも色っぽい話ではなかった。
そしてルビシェースカに留学してきたわけだが、この学院は芸術学院と謳うだけあって、ここの女生徒は政治などの面に関わろうとは思っていない者が多い。ターニャは芸術などの文化を学ぶことは、外交にも役立つと漠然と思っているが、それは他国の政治経済の状況を知った上でのことでなければ活かすこともできない。ターニャはフェンベルグの学園でその方面を学ぶこともできるが、この学院では学ぶことができない。必然的にこの学院で学ぶことは趣味の一環であり、この学院はいい条件の男性を探すための場と一般的には認識されているのである。
従ってターニャのように辞書もない国の本を自ら翻訳しようなどというやる気に満ちた者はどちらかといえば変わり者扱いである。ターニャにしてみればこの学院の雰囲気は物足りないものであった。リーナを始めとする学院の友人たちが男性の話をするのは、聞いていて面白くはあったが、そういった話が中心であることに時に苛立ちを感じることもあった。
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