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ターニャの精霊の言葉を聞いたサイは
「そうなのか?確かに契約したとしても精霊は気まぐれで常にこちらの言うことを聞いてくれるわけではないが……。契約が意思の疎通をしやすくするだけならば、契約は本来必要ないということか?」
と自分の考えをつい口にしていた。それを聞いてターニャの精霊は
『契約すれば意思の疎通がしやすくなるのだから利点が無いわけではない。だが、人間の頼みを聞くかどうかには契約は全く関係しない』
独り言に返事をもらい、またその内容にサイは衝撃を受けた。
「契約は関係ない……」
逆にそれを聞いてターニャは精霊術士になることに前向きになった。
「精霊術士というものが精霊様と契約を結んだ人のことで、契約というものがそれだけのものなら、精霊様と契約しても、精霊様がお困りになるようなことはないのですね」
『当然です。そもそも人ごときのすることで私たちを縛ることなぞできるはずがない』
それを聞いてターニャは契約することを決めた。
「そういうことでしたら、私と契約して頂けますか?精霊様」
『ああ。これでようやくあなたと絆が結べる』
「絆、ですか」
『そう、そこの者はずいぶんと無粋な呼び方をしていたが、かつてはエルヴィーラの眷属の中にも人と絆を結ぶ者はいたのです。エルネスティーヌの子らによって絆が絶たれてしまってから、どれだけこの時を待ったことか。さあ、私を個として認識できるようにしてください。そうすれば私とあなたの間に絆が結ばれます』
「……それはどのようにすればいいのでしょうか?」
ここでようやく自分の考えから復活したサイが口をはさんだ。
「その精霊に名をつければいいのです」
「名をつける?それだけで絆を結ぶ?ことができるのですか?」
「本来ならば契約をしてくれる精霊を探すことが難しいのです。だから、身近に精霊を連れていながら契約していないターニャさんが不思議だったのです。まさか契約のことを知らなかったとは思いませんでした」
ため息をつくサイを見て、ターニャはなんだか申し訳ないような気分になった。だが、知らなかったのだから仕方がない。ターニャは少し考えると、
「精霊様、イコという名はいかがでしょうか?」
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