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ターニャははじめ、サイの『精霊術とは精霊を使役する術だ』という説明に反発を覚えた。ターニャにとって精霊は畏怖すべき存在である。その存在を使う、ということが受け入れ難かったのだ。だが、そんなターニャに精霊術を受け入れさせたのは、その精霊自身だった。
そもそもサイがターニャに話しかけたのは、ターニャに精霊がついているのに、何故その精霊と契約していないのか、という点に疑問を持ったからだった。サイにとっては精霊がいれば契約をするのが当たり前だった。エイデンにおける精霊術士とは、精霊と契約を交わし、精霊に力を貸してもらえる者のことだ。「精霊術士」という職があるわけではない。ただ精霊術士であれば大抵の職で、就く際に有利に働く。それもそうだろう。普通の人間と精霊の力を借りられる人間であれば、雇う側も精霊の力を借りられる者を雇いたがる。とはいうものの、すべての職において精霊術士が優遇されるわけではない。精霊も万能という訳ではないからだ。そして精霊術士だからといって優遇されない職の筆頭が、サイの目指している文官だと話してくれた。
「優遇されないのに文官を目指すのですか?」
とターニャは最初聞いてしまったが、
「優遇される職に就きたいわけではない。私が文官になりたいのだ」
と言われ、すぐに納得し、謝罪した。それに対して、
「実際、精霊術士であれば家のためにと高い収入を得られる職を求める者は多い。私は家のことを考えずに自分の就きたい職を選べる、恵まれた立場だということだ」
と言って笑うのだった。
確かに自分で就く職を選べる者は多くはない。フェンベルグでは、王都に住む次男・三男くらいだろう。長男は家を継ぐし、女子は嫁いだ家の仕事を手伝う。まあ、女子の場合は嫁ぐ先を選べれば違うのだろうが、選べるのは優秀な一部の者だけだ。そしてターニャのように家を出るかだが、少し考えればこの選択肢はとてもリスクが大きい。頼りにできる人物がいればいいが、それがどれだけ当てにできるかわからないのが世の中というものである。
そんな流れで、「精霊術とは」という話をしていたのだが、そこに口をはさんできたのが、ターニャの精霊である。
『私たちは契約したからといって別に使われるわけではない。契約すれば意思の疎通がしやすくなるだけで、その者の頼みを聞くかどうかはその時の気分次第だ』
台風13号、割と近くに土砂災害警戒区域があるため冷や冷やしました。
どうやら無事に過ぎそうでほっとしてます。
被害に遭われた方々にお見舞い申し上げます。




