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秋になり冬の準備に心が向くようになる時期になると、毎年砦から見回りの兵がやってくる。閉鎖的な村では、他所からの来訪者は歓迎すべき存在である。春に商人が来ると、村は祭りのようだ。だが、秋に来る彼らは、徴税の役目も持っているため、いまひとつ歓迎する雰囲気にはならない。村人の多くは、砦のお偉いさんが来ている、という程度の感覚である。収穫量によって徴収する量も変わり、無理を言われることはあまりないが、積極的にかかわって粗相したくはない、といったところだろうか。だから、実は砦の人々と村人の間には考え方にかなり違いがあるのだが、そのことはあまり知られていない。
ことし、村に来たのは王国第5騎士団の団長のニコラス・ランジュを含む8名であった。ニコラスは団長であると同時に砦の責任者でもある。ヴァルド砦の砦領とも言うべき村々を自らまわり、討伐の必要な害獣のいる地域を確認し、村人たちが不都合を抱えていないか、毎年確認していた。昨年見習い奉公をするかもしれない女子がいることを確認したために、今年の見回りはターニャのいる村を最後にするよう計画していた。
ニコラスは村で、村長の報告を聞いて満足していた。今年はフェンベルグ王国全体で雨が少なく、不作気味であったのだが、この付近の村はあまり影響を受けていないようだったからだ。
「今年は雨が少なく大変かと思っていたが、そうでもないのだな」
「はい。精霊の加護がありますから、そうそう困ることはございません」
「そうか。精霊の加護があるのはありがたい」
「本当に、さようでございます」
村長は精霊の加護のおかげと信じているが、ニコラスは『運がいい』ことをいう決まり文句程度にとらえている。そして、お互いにそのことを知らない。
「ところで、この村の娘が見習い奉公を希望していたはずだが、どうなった?」
「ターニャでございますな。私は村で学ばせるだけで十分で、砦の方々のお手を煩わせるなどとんでもないと思っているのですが、どうにも親が子どもの言いなりでして…」
別段ターニャの両親はターニャの言いなりになっているわけではない。できれば優秀そうなターニャを村から出したくない村長の思惑からの言葉だった。
「ふむ、我儘勝手な子どもであれば少々問題だな。まあ、その家族と話をしてみよう。案内をしてくれ」




