1章 二話 彼女との新たな日常
彼女と会った後、しばらく話し込んでいた。彼女の好きな本についてや、彼女自身についても。いろいろと話していた。気がつくと図書館の閉館時刻ギリギリだった。彼女が教えてくれた本で、借りて読んでみたいのもいくつかあったが、借りるのはあきらめることにした。なんせこの図書館に来たのは初めてで、図書カードを一から作らなくてはいけないので借りるまでに時間がかかってしまう。なので『借りるのはまた今度来た時にしよう』と考えていた。
....って待て! 今また来るって考えているが、それはいつのことだ⁉ 俺は本なんて読まないのに彼女に会っただけでこんなに価値観とかかわるのか? と頭の中はパニック状態のまま図書館を後にするため廊下を歩いていた。
そして、先に外に出ていた夕雫に追いついた。そこで彼女は僕の思っていることには気が付かなかったのように笑ってこう言った。「明日も私来るから、よかったら来て」と。えっ? と思った。なんせ今日は日曜日だからだ。明日になれば月曜日になり、学校が始まるはずだ。彼女の学校は明日、創立記念日か何かなのだろうか? そう思ってるのが顔に出ていたのだろう。「ああ、創立記念日とかじゃないよ。私、いま学校に行ってないんだ。ちょっといろいろあってね」とちょっとがっかりした口調で言った。今まで、笑顔を絶やしていなかった彼女が初めて泣き始めてしまった。僕はすごくオロオロしていた。僕は人とかかわることがすごく苦手。いや、そのことを避けてきた人だからだ。こういう時に何を言ったら良いのかなんて分かるはずがないのだ。しかも相手は女子だ、もっと分からない。
そうして、しばらくたった彼女は泣き止んでくれた。その間僕ができたことは彼女の背中をさすりながら彼女がぽつぽつと話すことに耳を傾けることだけだった。しかし、そのことは彼女にとって好印象だったようだ。目元を真っ赤にして消え入りそうな声で夕雫は言った、「私の話なんてみんなもう聞いてくれないんだ。私って人の気持ちを分かっちゃうから」と。うん、それはさっき聞いた。彼女は人の声を聴くことでその発言者の心の声も聴くことができるのだ。しかし、その能力はいつでも、誰に対しても、働いてしまい彼女の負担は大きいものになってしまうのである。なので彼女はいつもはヘッドホンをつけてあまり人の声を聴かないようにしている。しかしなぜか、本に集中すると心の声が聞こえなくなるので、ここに来て読書にいそしんでいるのである、と聞いた。しかし毎日来ていたとは思わなかったが…
元どうりになった彼女は、笑って帰っていった。最後に「令央、良かったら明日も来て。話し相手が欲しいの。今日は君と話してて楽しかったから。待ってるね!」そう言っていた。明日彼女に会いに行こうか。迷いながら、僕も帰宅の途に就いていた。