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剣と魔法とお姉ちゃん‐3

 何かが視界をよぎった。


 背中から、正確には瑛美のリュックからそれは飛び出し、ウォルマと瑛美の間で大きく弾けた。青い光に目が眩み、思わず顔を背ける。


 ドン、と鈍い音が聞こえた。


 恐る恐る目を開ける。もう眩しくはなかった。最初に目に入ったのは、ウォルマが向かいの車にめり込んでいる光景だった。緑色の液体が全身からどくどくと流れ出し、道路に広がっていく。瞬く間にウォルマの身体は溶けていき、灰に変わる。そして消えた。


「ウソ……。」


 瑛美は呟いたつもりだったが、掠れて声になっていなかった。


「何、今の……?」


 優弦は呆然としてウォルマと瑛美を交互に見比べる。そして、瑛美の足元に落ちていた布の切れ端を摘み上げた。


「これは?」


 瑛美には見覚えがあった。姉が瑛美の高校入学記念に、とくれた御守袋の残骸だった。


 瑛美は流華が話すお化けや霊能力といったモノをあまり信じていなかったため、もらった時は防犯ブザーの方がよっぽど役に立つ気がするんだけど、とまで思っていた。


 それでも、桃色の御守袋自体のデザインは割と気に入っていて、ずっとリュックに付けていた。


 本当に、守ってくれた。あんな化け物から。




「瑛美ちゃん!」


 興奮気味に優弦が瑛美の両肩を掴む。


「今の、どうやってやったの!? もしかして君も“魔法”が使えるの!?」


 瑛美は何度も首を横に振る。


「わ、わかんない、これお姉ちゃんのくれた御守で、それが勝手に光って……え、ちょっと待って、今『君も』って言った? 優弦くんもその、“魔法”が使えるの?」


 魔法、と実際に口に出すととても子供じみた響きに感じて、瑛美は少し気恥ずかしくなる。だが、優弦の表情は至って真剣そのものだった。


「いや、俺はそんなに才能無くてあんまり使えないんだ。でも、青い魔法なんて聞いたことないよ。瑛美ちゃんのお姉さん、一体何者なの?」


「何者、って言われても……確かにうちのお姉ちゃん、昔から霊能力があるんだ、って言ってた。けど、そんな魔法みたいなすごい力使えるなんて聞いたことないよ、たまに変なモノが視えるって言うくらいで。この御守だって、ちょっとしたおまじないみたいなもんだと思ってたもん。」


「でも、じゃあ、今のすごい力は一体……?」




 二人で疑問をぶつけ合ってるうちに、大破した車の周りには人集りができ、パトカーや消防車が集まってきて騒然となった。混乱に乗じてこっそりその場を離れた。


 公園の水道で水分補給をして顔と手を洗うと、少し落ち着いた。瑛美は優弦にタオルを貸してやった。彼の身体の傷はすっかり塞がっている。


「ありがとう。まだ聞きたいことはあるけど、俺、まずは家に戻るよ。秀人さんのことが心配なんだ。」


 瑛美は、秀人のことを思い出す。短剣が落ちてくる前に叫んでいた言葉は、魔法の呪文なのだろう。二人が逃げ出してすぐにウォルマが追い付いてきたことを思うと、無事ではないのではないか。だがそんなことは口に出せず、相槌だけ打った。




 リン




 不意に、鈴の音が響いた。


 見ると、首に鈴をつけた黒猫が一匹、いつの間にか二人の足元に立っていた。この辺りの家の飼い猫だろうか、スマホがあったら画像撮りたかったな、などと思いながら瑛美が覗き込むと、黒猫の瞳が不自然に赤く光った。


「わあ! 何!?」


 思わず後ずさった。


『優弦! 無事か!』


「えええ喋った!」


 黒猫が人間の言葉を話したことで、さらに驚いた。


「無事だよ、秀人さん! ……この子、秀人さんの使い魔だよ。ポーって名前なんだ。」


 優弦が嬉しそうに黒猫を抱き上げながら、説明してくれる。使い魔とは、と聞きたかったが、もう尋ねる気力は無かった。


『遅くなってすまない。今そっちに向かっている。』


「わかった、秀人さんこそ無事なの?」


『少し負傷してしまったよ。そのせいで遅れてしまった。とにかく落ち合おう。西公園にいるんだろう、そこで待っていてくれ。』




 日が暮れかかっていた。瑛美は帰っても良かったのだが、今しがた起きた出来事の数々をどう理解して良いかわからず、疲労も相まってベンチにへたり込んだ。


「……秀人さん、俺の本当の父親じゃないんだ。」


 隣で優弦がポーを撫でながら呟いた。下の名前を呼んでいたのでもしかしたら、と思っていた瑛美は納得した。


「元々は父さんの部下で。すごい魔法使いだったんだって。こっちの世界に来ることになって、もうその時には父さんは死んじゃってたから、代わりに面倒見てくれることになったんだ。」


「そもそも、どうしてこっちに来ることになったか、聞いても良い?」


 瑛美は、いつの間にか優弦の「異世界から来た」という話を受け入れている自分がいることに気づいた。


「小さかったからよく覚えてないんだけど……政権争いに負けて逃げてきたんだって。俺を支持する人達と他の兄弟を支持する人達でかなり過激に争ってたみたい……俺、王子なんだ。アガルタっていう国の。名前も本当は違うんだよ。教えられないけどね。」


「優弦君が引っ越してきたのって、確か小学一年生くらいだったよね?」


 わずか六〜七歳で、異世界に亡命しなければならないほどの争いに巻き込まれたのか、と瑛美は背筋が少し寒くなった。


「国を出て来てからも、ずっとウォルマみたいなのに追われてたの?」


「ううん。今日まで平和に暮らしてたよ。放課後、学校から帰って玄関を開けたら、ウォルマがいたんだ。いきなり襲われて……すぐに秀人さんが助けにきてくれて、ベランダから飛び降りて逃げろって。」


「そうだったんだ……。」


 確か優弦の住む部屋は八階にあったはずだ。あの高さから飛び降りて、生きていられるなんて。


「もうアガルタのことなんて忘れかけてたのに。今さらこんな風に命を狙われるなんてさ……。」


 優弦がため息を吐く。疲れが顔に浮かんでいた。ポーがジッと彼を見上げている。


「向こうでの暮らしで一番記憶に残ってるのが、逃げなきゃ、って怯えてたことなんだ。こっちの世界に来てすぐは大変なことも多かったけど、安心して外を歩けるのがすごく嬉しかったのを覚えてる。なのに、また追われる生活に戻るのかな。」


 瑛美は何と声をかけて良いかわからず、優弦と一緒になってポーを撫でた。




「待たせてしまったな。」


 秀人が現れた。右肩に大きめのショルダーバッグを提げている。


「秀人さん! 傷は大丈夫なの?」


「ああ。ここに来るまでに治療術を使った。全快とまでは行かないが。」


 左の袖を捲って見せる。長い傷跡が走っていたが、血は止まっているようだった。


 優弦が瑛美の御守袋の話を聞かせると、秀人は意外にもあまり驚くことはなく、納得したように頷いた。


「この世界にも、魔力に似た力があると聞いたことがある。私達の使う魔法は赤い光を放つが、こちらでのそれは青い、とも。」


 秀人はすっかり暗くなってしまった空を見つめる。視線の先には、鴉が一羽ゆっくりと旋回していた。


「俺、全然知らなかった……。」


「亡命する前の下調べで、噂程度に聞いただけだ。ウォルマが優弦でなく君を狙ったことが不思議だったんだが、これで合点がいった。君の持っていた御守袋に反応したんだろうね。魔獣は、私達よりもずっと魔力に敏感だから。」


「そうだったんですね……。」


 御守袋のおかげで助かりはしたが、狙われたそもそもの原因がその御守袋だと聞いて、瑛美は複雑な気持ちになった。


(何てモノをプレゼントしてくれたのお姉ちゃん……。)




「瑛美!」


 公園の柵を挟んで、彼女を呼ぶ声があった。振り返ると、瑛美の父、太一たいちの姿があった。

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