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黒薔薇姫は、怠けたい  作者: 澪亜
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執行官は、立ち会った

「……酷い目に遭った……」


無事シャリアンデの街に到着して車から降りたデニスの第一声。


「ちゃんと無事に着いたじゃない」


「危なっかしくて、生きた心地がしなかった……」


「もう……デニスは、心配し過ぎよ。ちゃんと法定速度は守ったもの」


「……あれで?」


そんな会話をしつつ、屋敷に入る。


「……アルトドルファー伯爵との会談前に、聞いておきたい。ディアナから見て、アルトドルファー伯爵はどんな人だ?」


「護国の英雄にして、恐ろしい人。そしてそれと同時に、悲しい人」


「……よく、分からない」


デニスの言葉に、思わず笑う。

私も、そうだ。

何度もアマーリエ様と話をさせていただいても、その度に新たな発見がある。

未だ、アマーリエ様のお心を図ることはできない。


「実際に、アマーリエ様がどんな人かはデニス自身が見極めるべき。ただ、魔王関連の話は包み隠さず全てを話した方が良い。あの人は、王国に興味がない。裏を返せば、魔塔も含め王国の誰とも絶対に繋がっていない人よ。そして、対魔王戦の最大戦力。だから貴方の敵が誰であれ、魔王のことに関しては素直に協力を仰ぐべき」


そう言い切ったタイミングで、ジークフリードさんが現れた。


「ようこそ、お越し下さいました。アマーリエ様が、お待ちです」


ジークフリードさんの案内に従って、先へと進む。

進むごとに、デニスの緊張が高まるのを肌で感じた。


そうして到着した部屋に入って待っていると、アマーリエ様がカイさんとゾフィーさんを伴って部屋に入って来た。


「ようこそ、アルトドルファー伯爵領へ。私が当主のアマーリエよ」


柔かな笑みを浮かべたアマーリエ様に、一瞬先程までの緊張を忘れたのかデニスが惚けていた。


「……初めまして。魔塔二級魔法師のデニスと申します。この度はご多用な中、お時間を賜り感謝申し上げます」


ガスパールさんの時のように場を取り持つべきかと口を開いた矢先に、デニスが我に返って挨拶をする。


「早速ですが、アマーリエ様。魔王が復活するのは、本当のことなのでしょうか?」


「ええ、本当よ。復活まで、あと半年ぐらいってところかしら」


「……封印に際し、どのような魔法を使用したのかご教授いただいても?」


「あら?……王国では、魔塔が魔王を封印したということになっていると聞いたのだけど」


アマーリエ様の問いに、デニスは僅かに顔を顰めた。


「私も、ずっとそう思ってました。ですが……魔塔には、魔王に関連する書物は何一つとしてなかったのです」


「三百年も時が経っているのだもの……情報が散逸してしまうことは、仕方のないことね」


重たい沈黙が、部屋にのしかかる。

デニスもアマーリエ様も、互いに相手の出方を伺っているようだ。


「……アマーリエ様。率直に申し上げますと、私は魔塔が故意に魔王関連の情報を隠蔽しているものと思っています」


そして沈黙の先に、カードを切ったのはデニスだった。


「その根拠は?」


「瘴気。魔塔の中でその概念は知られているものではありません。しかし、魔塔の中で一定の地位以上にいる者だけは、何故かそれを知っているようでした」


「……根拠としては、弱いわね。けれども、疑わしく思える要素……そんなところかしら」


「はい、仰る通りです。……私は、ディアナから魔王復活の報を聞いた時から、魔塔内で魔王のことを調べていました。恐れ多くも、始めは魔王復活の報を嘘だと思っていました。けれども、調べていく内に、その不自然さに気がついたのです。瘴気という概念を、一定の地位以上にいる者のみが知っていること。知識の宝庫として王国中の書物が集められているというのに、魔王関連の書物は一切存在しないこと」


ふう、とデニスは深く息を吐いた。

その間、アマーリエ様は興味深げにデニスのことを観察しているようだった。


「今、私には協力者がいます。調査をする過程で、これ以上踏み込むのは危険だと忠告してくれた人です。その人は、次期魔塔の長に指名されるのではと囁かれていた程の実力者。しかし、現魔塔長補佐にとある誘いを受けて断った結果、左遷されました」


「……その誘いとは?」


「永遠の命が欲しくないか、と」


アマーリエ様は、その言葉にくすりと笑った。


「ふふふ……永遠の命、ねえ。本当に、力を得た者の行き着く先は何故それなのかしらね?ディアナ」


アマーリエ様の問いに、私は苦笑を浮かべつつ首を傾げる。

私とアマーリエ様のそのやり取りに、デニスもまた不思議そうに首を傾げていた。


「まあ、良いわ。続きをお願い、デニス」


「はい。……その人が調べたところでは、永遠の命は魔王復活の延長線上にあるとのこと。しかし、残念ながら私が分かっているのはそこまでなのです。そのため、少しでも魔王に関連する情報を集めるべく、アマーリエ様にお時間をいただいた次第です」


「三つ、貴方に質問があるわ」


「はい」


「一つ、貴方は永遠の命は欲しくないの?」


「……不要です。私は、長く生きることよりも何を為したかの方が重要だと思っていますので」


「あら……長く生きた方が、何かを為すチャンスは増えるのではなくて?」


「本当に、そうでしょうか?……少なくとも私は弱いので、永遠の時を得たらそれに甘えて怠けてしまうと思います」


アマーリエ様はその答えに、心底愉快そうに笑った。


「それに、私には愛する人がいます。彼女に永遠の命を与えることができるのであれば、悩ましく思うかもしれませんが……」


「それは、ダメ。姉さんに、置いていかれる辛さを永遠と味合わせるような真似をしないで」


つい、口を出してしまった。

理性では落ち着いて話を聞けと言っているのに、感情がそれを拒絶する。


……勿論、姉には長生きをして欲しい。

でも、永遠の命は違う。

だって……もしそれを得てしまえば、姉はずっと置いていかれてしまうのだ。


私が死んで、私の子どもも、孫も、皆が死んでも……姉は、生き続ける。

私だけではなく、家族にも友にも……彼女を取り巻く全ての人に置いていかれる。


……アマーリエ様の御心の一端に触れて、永遠の命というものの重みが少しだけ垣間見たからこそ、姉にそのような苦しみを感じて欲しくないと強く思ったのだ。


「この通り、義妹が反対しているので。そして私も、彼女と同意見です」


「あら……貴方とディアナは義理の兄妹の関係なのね」


「まだ、正式にではないですが」


「ふふふ、そう。……話が逸れたわね。二つ目、仮に魔王復活を魔塔の上層部が隠蔽しているとして……貴方は、どうしたいの?上層部を糾弾し、一掃したい?」


「……いいえ。正直、魔塔の上層部がどうなろうと知ったことではありません。ただ、魔王復活が避けられないのであれば、その被害をなるべく抑えたいというだけです」


「なるほど。正義感が強い、ということかしら?」


「さて、どうでしょう?私には、家族がいて恋人がいて、友がいる。彼らを守りたいと思うことは、正義感が強いと言えるのでしょうか」


「そうねえ……少なくとも己の命の長さにだけに固執している上層部よりも、ずっと正義感が強いように思うけど?」


「彼らと一緒にして欲しくはありません。とは言え、そうですね。残念ながら魔王復活を利用しようとする魔塔上層部を信用できないというのは事実です」


「まあ、そうよね。……では、三つ目。貴方の協力者とやらは、どこまで信用ができるの?」


「それは……」


虚を突かれたように、デニスは目を見開いた。


「だって、そうでしょう?もしかしたら、魔王と永遠の命が繋がっているなんて、真っ赤な嘘。永遠の命は、魔塔が研究している魔法なのかもしれないじゃない?その協力者は、自身の権力を取り戻すために、貴方と魔王を利用しようとしているのかもしれないわ」


「……あり得ないことではありません」


そして息を吐き出しつつ、俯く。


「……ですが、魔王は復活するのでしょう?」


やがて彼は再び顔を上げつつ、問いかけた。


「あら……そうだったかしら?私が嘘を言っているのかもしれないわよ」


「全てを疑い出していたら、キリがありません。ご指摘の通り、もしかしたら私は権力闘争に利用されているだけなのかもしれません。けれども今……その可能性を指摘されて考えましたが、極論、そんなことどうでも良いのです」


「……どうでも、良い?」


「はい。最悪なのは、魔王復活が嘘ではなく、それ対して全く何も対処ができないこと。仮に魔王復活が嘘で、結果私の空回りだったなら良い。悪戯に騒がせた罰として、魔塔を排斥されようとも、甘んじてその処罰を受けましょう。逆に対魔王戦の備えをするためならば、喜んで協力者も利用してみせましょう」


「まあ………ふふふ」


デニスの答えに、アマーリエ様は楽しそうに笑った。


「貴方は、ブレないのね」


そう呟きつつ、アマーリエ様はゾフィーさんに目配せをした。

それを受けて、ゾフィーさんが書類を差し出した。


「結論から言うと、魔王は必ず復活するわ。そしてそれが、魔王封印の魔法よ」


デニスは、食い入るように書類を見る。

そのまま、暫く室内は物音一つしない程の静寂に包まれた。


「……これは、どのような魔法なのでしょうか?」


「見ての通りよ。……何か、変なことが書かれているかしら?」


アマーリエ様の問いに、デニスは悔しそうに唇を噛み締める。


「正直に申し上げると、私の理解が及びません……」


「まあ……ふふふ」


笑い出したアマーリエ様を見て、ピクリと若干デニスの顔が強張った。


「ふふふ……ああ、気を悪くさせてしまったら、ごめんなさい。貴方の言葉を聞いたら、この魔法陣の制作者は悔しがるだろうなと思ったら、笑えてきちゃって。やっぱり、まだまだ完成まで先が長いわ」


「……どういうことでしょうか?」


「この魔法陣はね、冷蔵庫の発展形として開発されたもの。本来の使い方は保存よ。冷たいものは、冷たいまま。温かいものは、温かいままで保存ができるようにってね。まだ、問題点はたくさんあるわ。例えば冷蔵庫のように、空気中の魔素を取り込めなくて、閉じている間ずっと魔力が消費されてしまうとかね」


そう言って、アマーリエ様は苦笑いを浮かべる。


「けれども冷蔵庫の発展形として売り出すのであれば、一番の問題は汎用化ができないということだわ。魔塔の貴方ですら理解が及ばないのだもの……量産なんて、夢のまた夢ということ。だから、きっと開発者が今の言葉を聞いたら悔しがるだろうなって。それでまた、この魔法陣の改良に乗り出すのでしょうね」


「……私の聞き間違いでしょうか?開発者が、生きているように聞こえたのですが」


「ええ、生きているわね」


「三百年の時を?」


「ええ。この封印の中は、時が止まっているのだもの。外と中から空間を閉じる必要があったから、開発者は魔王と共に封印されることを選んだわ」


「……少し、この資料をお借りしても宜しいでしょうか?この魔法陣を研究させていただきたい」


「ええ、勿論」


簡単に貸出を許可したことに、若干デニスは首を傾げていた。

三百年も前の貴重な文献と信じている彼にとって、アマーリエ様の快諾は思ってもみなかった反応だったのだろう。

事実は、アマーリエ様が適当に書いた文献だからこその許可なのだが。


「大変失礼な話ですが、他に魔王復活を裏付けるような証拠はありますか?」


「証拠……と言われても。他にはないわ」


困ったような表情を浮かべるアマーリエ様とデニスを見て、会話に割り込むべく口を開く。


「アマーリエ様。外隊の隊員たちをお借りしても宜しいでしょうか。魔王封印の地を見れば、実感が湧くでしょうから」


「ああ、百聞は一見にしかずというものね。そうね……カイ、貴方が共に行きなさい」


「俺の本分は、アマーリエさまの護衛ですけど?」


「ええ、分かっているわ。けれども貴方だからこそ、私の目となり彼らの護衛兼監視を任せたいの」


「了解です」


「ごめんなさいね。封印は不安定な状態だから、貴方が魔法陣を触らないよう監視をつけさせてもらうわ。それで良ければ、魔王封印の地へ行くことを許可しましょう」


「構いません」


デニスの答えに、アマーリエ様は頷く。


「では、明朝行ってらっしゃいな。その後、また話をしましょう」


「……今から行くことは、可能でしょうか?」


「オススメはしないわね。夜の方が瘴気が活発化されるから……はじめて見る人には刺激が強過ぎるもの」


「デニス。アマーリエ様の仰る通り、朝にしよう。私も、何度か見に行ったことがあるけど……正直、日が出ている間でもかなり辛かったから」


「分かりました。お時間、ありがとうございました」


そうして、デニスとって初めてのアマーリエ様との会合は、淡々と終わったのだった。



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