黒薔薇姫は、困った
アマーリエ様は、何故……人間と、関わりを持ち続けるのですか?
そうディアナに問われた時、ふいに思考が停止した。
何故、か……。
始まりは、興味本位だった。
この世界の人がどんな文明を築き、どのような生活をして、どのような考えを持っているのかと。
そんな興味を持ったのは、私が人として生きた前世の記憶があるからに他ならない。
果たして……出逢ったのは、やっぱり人だった。
肌の色が、違う。髪の色が、違う。瞳の色が違う。
けれども、泣いて笑って怒って……。
日々の生活を営むために働き、そして余暇を楽しむ。
……どの世界にいようとも、人は人なのだと思った。
エルマとカミルと親しくなったのが、決定的だった。
親しくなればなるほど、深みに嵌った。
『……アマーリエ。貴女、どこに行くの?』
ふと、昔に母に問われた言葉を思い出す。
『アルベルトのところだよ』
『そうじゃなくて。アルベルトと、どこに行っているの?前に貴女が出かけた後、用があって街中を探したけれども、見つからなかったわよ?』
『……そんなことがあったの?……いつのことか分からないけど、多分、街にいなかったのなら森の中にいたと思うよ。ホラ、新しい魔法陣を開発した時とかは、森の中で試すようにしているから』
私の答えに、母は尚も疑いの眼差しを向けていた。
『それならば良いけれども。……アマーリエ。貴女も分かっているとは思うけど、人間の街に行ってはダメよ』
『うん……』
『お願いだから、その掟は守ってね。私たちと人間は時の流れが違う。貴女とアルベルトは特にそう。貴女たちが苦しむだけだわ』
『うん……気をつける』
その時には既に街で知り合った人たちと、離れがたくなっていて。
……もう、深みに嵌っていた。
今思えば、母の言葉は正しい。
吸血鬼にとって、人など瞬きの程しか生きられない存在。
心を砕いてしまえば、やがて辛くなるのは自分。
結局、中途半端な自分が悪かったのだ。
今世の吸血鬼としての価値観……人を恐れ忌避するそれがあるというのに、前世の自分を捨てられず、人との交流を続けようとした。
その結果が、アルベルトの別離。
だというのに、未だ前世の価値観を引っ張り、心のどこかで誰かが……領民だけでなくこの国の民も含めて、傷付くことを恐れているのだから愚かにも程がある。
吸血鬼としての自分が、短い生の人間を助けてどうする?と問いかけているのに。
領主としての自分が、全てを救うなんて傲慢が過ぎると囁いているのに。
だから、私は度々口に出す。
国なんて、どうでも良いと。
そこに住む人々がどうなろうとも、関係ないと。
そうして、自分の考えがブレないように自らを戒めているのだ。
エルマとカミルと出逢えたことには、感謝している。彼らとの思い出は、私にとって宝物。
そして二人と出逢えたことで、多くの人たちとの交流の環が広がって……幸せだと感じることもあった。
その中には勿論、カイやゾフィーをはじめとする今側にいてくれる人たちが含まれている。
けれども、もう間違えたくない。
私にとって、本当に……本当に全てを分かち合えるのは、アルベルト唯一人。
膨大な時の流れが私を押し潰そうとしても、彼がいれば生きていける。
飾らずとも、片意地を張らずとも良い。
全てを曝け出して、ただその胸の中に飛び込んで……そうして、ずっと、一緒にいたい。
だからこそ彼を失って、自分の一部が欠けたように感じられた。
……ずっと、彼のことを求めて止まない。
この三百年、彼を思わなかった日はなかった。
だから、私は止めない。
この国がどうなろうとも、誰が傷つこうとも。
前世の自分が抱える葛藤も含め、全てを飲み込み、恨まれることを承知で、それでも私は歩みを止めるつもりはないのだ。




