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黒薔薇姫は、怠けたい  作者: 澪亜
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魔術師は探る

「デニス。閲覧室の特別許可証が出来たから、取りに来いってさ」


「ああ、ありがとう」


同僚に感謝しつつ、私は許可証を受け取りに向かう。

閲覧室の特別許可証……古今東西、魔法に関するありとあらゆる資料が揃う魔塔の中でも、特に希少価値が高い、あるいは表に出さないような本が収められている閲覧室に入室するための許可証だ。


許可証を発行して貰うための条件はかなり厳しいが、丁度今手がけている新たな魔法の開発に関する仕事のために、どうしても必要な資料があるとゴリ押した。


許可証を受け取ると、早速閲覧室に向かう。

日当たりは悪く、全体的に埃っぽい。


早速、手当たり次第探し始めた。

魔王、瘴気……それらに関係する本がないか。


上司が口を滑らせた一件以来、注意深く色々な人に探りを入れた。

結果は、散々だった。

誰もが御伽噺に熱を入れてどうした?というような反応。


それでも探りを止めないのは、自分の直感が警鐘を鳴らしていたからだ。


「精が出るな、デニス」


声をかけてきたのは、ランドルフ様。

この閲覧室の責任者だ。


「お久しぶりです、ランドルフ様」


「止せや、様つけで呼ばれるような大層な人間じゃない」


カラカラと、ランドルフ様は笑った。

私もつい、笑みを漏らす。


ランドルフ様は、親しみ易い雰囲気を醸し出しつつも確かな実力で末は魔塔の最高責任者である魔塔長に就任されると専らの評判だった人物だった。


それなのに今、何故か閲覧室の室長という閑職に追いやられている。


原因は、誰も知らなかった。

今の魔塔長と仲違いしたというのが有力な説だけれども、真偽の程は定かではない。


「デニスは、そんなに真剣に何を探しているんだ?」


「開発中の術式の参考になる本を……」


いつの間にか、ランドルフ様が目の前に来ていた。


「魔王関連の本を探しているのなら、無駄だぞ。この部屋には、何もない」


そして告げられた言葉に、息を呑む。


揶揄っている様子は、全くない。

現に、先程までの柔らかな雰囲気は消え失せ、一線で活躍されていた頃の鋭さが瞳に宿っていた。


「……何故、それを?」


ごくり、唾を飲み込みながら問いかける。


「こんな場所にはいるが、まだ使える人脈は残っているってところだ」


カラカラ、とまたランドルフ様は笑った。

けれども先程の笑みとは異なり、どこか凄みがあった。


「……これ以上首を突っ込んだら、お前の身が危ないぞ。デニス」


「……私も、引けない理由があるのです。ランドルフ様、少しお時間を頂戴しても?」


何か、知っている。

そう判断した私は、ランドルフ様に誘い文句を告げた。


「……ああ。どうせ暇を持て余している爺だ、いくらでも付き合うぞ。ちょっと待ってろ」


そう言って、閲覧室の奥から椅子を引っ張り出してきてくれた。

薦められるままに座り、ディアナから届いた手紙の内容と上司に感じた違和感を伝える。


全てを話し終えた時、ランドルフ様は静かに頷かれた。


「……俺が、何故こんなところで資料の管理をする羽目になったか知っているか?」


その問いに、首を横に振る。


「ある時、魔塔長補佐に聞かれたんだよ。永遠の命が欲しくないかって」


「永遠の命、ですか……」


「デニスなら、なんて答える?」


「……正直なところ、唐突過ぎて……」


「だよなあ」


「ただ、私は……長く生きることよりも、何を為したかの方が重要だと思ってます」


「言うねえ。……でも、気をつけた方が良いぞ。俺の理由は違うが、いらないって答えたら、ここに飛ばされた」


「……つまり、魔塔の上層部は永遠の命を求めている人たちで構成されていると?」


「理解が早くて助かる。飛ばされた後、俺は残った人脈で探りを入れたさ。どうやら、奴らは夢物語ではなく永遠の命を得る確かな道筋が見えているらしい。詳細は分からないが、どうやらそれに魔王が関係しているようだ」


「……ランドルフ様は、魔王が復活すると思いますか?」


「ああ、そうだな。永遠の命とやらの道筋は、魔王の存在の延長線上にある。つまり、史実は真っ赤な嘘。三百年前に魔王を滅しきれていなかったってことだ。だからここに飛ばされてから、魔王は生きているものとして、それがどうなったのかを調べ続けていた。まさか、お前からその答えを得るとは思っていなかったよ」


「つまり、魔塔の上層部は魔王が復活することを承知の上で隠していると?」


「そうとしか思えない。魔王を調べていたお前なら、分かるだろう?何故か、魔塔に魔王関連の書物は全くない。魔塔という組織の興りは、初代魔塔長ディルクが魔王を討伐したことから始まるっつうのに、肝心の魔王討伐に関する書物がないって……冷静に考えると、おかしくねえか?」


「……確かに、そうですね。飾らない言葉で言うと、魔塔は知りたがりかつ書物の蒐集家ばかりが集まっている組織だと言うのに……魔王討伐の偉業を書物に残さないなんて、おかしい」


「そういうこと。まあ、ここが真っ黒でも俺は驚かないね」


「……話を戻しますが、何故、ランドルフ様は永遠の命をいらないと?」


「俺は寂しがり屋だからさ、一人で長生きしても仕方ないだろ?」


「なるほど。……ならば、ランドルフ様は魔王復活による国の混乱は望まれない……と理解しても?」


「そうだなあ……ま、角の酒屋の女将とか道具屋の店主の娘とか吟遊詩人のエリーニャちゃんとか……世の女性が殺されるところを見るのは御免だな」


「……安心しました。それならば、ランドルフ様。私たちは、協力できるのではないでしょうか?」


「……国の混乱を最小限に留めたいってか?俺たち二人じゃ、どうにもならんだろ」


「魔王は生きているものと考えていたランドルフ様が、何も対策をしていないとは思えません」


「なるほどなあ……賢い子は、嫌いじゃないぞ」


「同時に、上層部の動きを探ることも必要でしょう。魔王に上層部が助力をしていたら、目も当てられません」


「はは……それはそうだな。そっちは俺が受け持つから、デニス。お前は、アルトドルファー伯爵に探りを入れろ」


「諒解しました。友を介せば、アルトドルファーに近づくことは可能です。ただ、無闇に近づけば上層部を刺激することになりませんか?」


「それこそ、友達に会いに行きます!じゃ、ダメなのか?」


「……あり、ですね。頻繁に手紙のやり取りをしていることは誰もが知るところですし……」


「んじゃ、頼む」


「ええ。ランドルフ様も、何か分かりましたら教えてください」


「おうともよ」


それから、暫く今後の動きについて話し合った。

そして全てが終わったところで自室に戻ると、早速ディアナ宛に手紙を書いた。




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