執行官は、立ち会う
屋敷に戻ると、私たちは簡単にそれぞれ身支度整えてから、四人で応接室に向かった。
応接室で待っていると、程なくしてアマーリエ様が現れる。
さっと三人に視線を移すと、皆がアマーリエ様に見惚れていた。
……その気持ち、よく分かる。
「ガスパール、ロルフ、アグネス……ね。三人とも、長旅お疲れ様。そしてようこそ、アルトドルファー伯爵領に。私が当主のアマーリエ・アルトドルファーよ」
三人は、固まったままだ。
……どうにか目を覚まさせなければ。
「お時間を頂戴し、ありがとうございます。アマーリエ様」
結果、私がアマーリエ様に言葉を返す。
その行為でやっと三人は目が覚めてくれたのか、目元を引き締めているようだった。
「私からも、礼を。本日は貴重な時間をありがとうございます。今しがた、この街を見て回って来ました。とても美しく素晴らしい街並みが心に焼き付いて離れず、頭もろくに動いていないようです。ご無礼がございましたら、平に容赦を」
「まあ……恐縮だわ。何もない鄙びたところだけれども、気に入っていただけたら嬉しいわね」
ガスパールさんは、苦笑いを浮かべている。
それもそうだろう……ここが何もない鄙びたところなんて、とんでもない。
「どうぞ、こちらの領地ではゆっくりとお過ごしになって。ただし、黄昏の森に行く時には声をかけて頂戴。貴方たちに何かあれば、当家の責任だもの」
「……アマーリエ様。彼等の探索の際には、当家のラインハルト以下が案内を務める予定です」
「あら、そう。それなら、安心ね」
ジークベルトさんの答えに、アマーリエ様は満足気に肯く。
「……ご質問、宜しいでしょうか?」
ロルフの問いに、アマーリエ様は小さく「どうぞ」と返した。
「何故、アマーリエ様は王都に赴かないのでしょうか?」
「あら、だってねえ……私は、この地の守護を任された身。社交界で皆様と仲良くさせていただくことも重要と理解しているけれども、お役目を果たす以上に必要なことってあるかしら?」
……建前を説明するんだなと、内心驚く。
アマーリエ様なら、素直に王国なんてどうでも良いとでも言い放ちそうだと思ったのに。
「……役目を果たす?貴女様が、前線で戦うということでしょうか」
「ええ、勿論。必要とあらば、前線で戦うこともあるわね」
想像もつかないだろうな……こんな綺麗な人が、前線で自ら戦うなんて。
今でこそ当たり前のように感じてるけど、私も当初は信じられなかったもんなあ……。
「魔王の復活は、王都ではどれだけ重く捉えているのかしら?」
「……まだ、数名しか知り得ません。下手に広げれば、混乱が起きますので」
「まあ……余裕があって、羨ましいわ。私は、この領地の備えが万全か心配で心配で仕方ないというのに」
アマーリエ様は優しく微笑んでいる。けれども、瞳は冷めていた。
「……アマーリエ様。貴女様は、本当に魔王が復活すると?」
「ええ。アルトドルファー伯爵は、そのために存在していますから。むしろ、私は王都に伝わっていないことの方が驚きでしたわ」
アマーリエ様はクスクスと笑った。
「ディアナのおかげで、王都の方々が我が身を心配するのもよく理解できましたわ。お役目があるからこそ、私は王都に行かずにここにいる。……けれども、そのお役目そのものが伝わってなければ、単なる出不精と見えるわね」
「いえ、そのようなことは……」
ガスパールさんは否定していたけれども、ちょっと苦しい。
完全に、会話の主導権はアマーリエ様が握っていた。
「冗談よ。……王国内に、魔獣が増えたとの報告は?」
「特段ございません」
「あら、そう。それは羨ましいわね。……さて、私はそろそろ失礼させて貰うわ。先にも言った通り、皆はゆっくりと過ごしてね」
「お時間、ありがとうございました」
アマーリエ様は私たちの御礼に軽く首を縦に振ると、颯爽と部屋を出て行った。




