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黒薔薇姫は、怠けたい  作者: 澪亜
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執行官は、迎え入れる


アインさんツヴァイさんの短い滞在期間も終わり、平穏な日々を過ごしていた。


アインさんツヴァイさんの歓迎会の次の日、地獄を見たのは良い思い出だ。

もう二度と、美味しかろうとも酒は適量のみと心に誓ったほど、酷い二日酔いに苦しめられた。

幸いにもベティーナの薬がよく効いて、次の日の業務もこなせたけれども。


さて、今日は私の同僚が到着する日だ。

この日ばかりはと、クリスティンさんには休みを頂いている。


「ぞ、ゾフィーさん?」


そろそろかと屋敷の前で待っていると、何故か馬に乗った集団の先頭にはゾフィーさんがいた。


「お久しぶりです、ディアナさん」


「お久しぶりです、ゾフィーさん。あの、何故こちらに?」


「この者たちの案内で、来ました。……全く、五月蝿くて仕方なかったですよ。何故アマーリエ様が領都にいないのかと。逆に、何故このような者たちをアマーリエ様が自ら迎え入れなければならないというのでしょうね?」


……既に、やらかしていたか。

やっぱり、領都で待っているべきだったか……。


つい、深い溜息を漏らす。


アマーリエ様のご好意に甘えて、この街までの案内をゾフィーさんにお願いしたのだけど。


「……アマーリエ様の命がなければ、消していたものを」


剣呑な眼差しと共に吐き出された言葉に、素直に自分の判断が誤りだったことを悟る。


それにしても……まさか、まさか初っ端からやらかしてくれるとは。


「身内が無礼な態度をとり、誠に申し訳ございません。にも関わらず、ここまで案内を頂きましてありがとうございます」


一も二もなく頭を下げて、謝罪する。


ゾフィーさんは暫く無言だった。


「……随分と、変わったようですね」


それだけ呟くと、屋敷の中に入って行ったのだった。


「ガスパールさん、ロルフ、アグネス、ご無沙汰してます」


彼女の背中を見送ると、ここに来た三人に向き合う。


ガスパールさんは、私の先輩。

そしてロルフとアグネスは同僚だ。


まさか眉唾な報告に三人も派遣してくるとは……と、正直驚いている。


「久しぶりだな、ディアナ。元気にしてるか!?」


にっこり笑って言葉を返したのは、ロルフだ。

見た目は、赤茶の髪が特徴的な爽やかな青年という感じで、顔立ちも整っている方だと思う。


方だと思う……というのは、アルトドルファー伯爵領に来てだいぶ目が肥えてしまった弊害だ。


明るさが取り柄だけど、自分が正しいと思ったことに猪突猛進してしまう性格の持ち主。

正直、三人の中で一番やらかしてしまうのではないかなと危惧している。


「ええ、元気よ」


「なら、良かった。この領地で大変な目に遭っているんじゃないかって心配していたのよー?」


アグネスは可愛らしい顔立ちだ。

けれどもその可愛さに油断していると、手柄は全て掠め取られている……そんな性格の持ち主だ。


「……なあ、ディアナ。ここ、本当にアルトドルファー伯爵領なのか?」


その後ろから、頬をかきながら現れたのがガスパールさん。

無精髭を好き放題生やしてがっしりとした体躯の彼は、正直王国の遣いである執行官には見えない。

けれども多分、三人の中では一番思慮深い。


「正真正銘の、アルトドルファー伯爵領ですよ。何故ですか?」


「……いや、その街並みが……。お前の報告書は一通り目を通したが、やっぱり実際目にすると全然違うな」


そう言って、ガスパールさんは苦笑を浮かべた。

なるほど、確かにそうだ。

すっかりこの光景に慣れてしまって忘れていたけれども、この街はおそらく王国のどこよりも発展している。


「……お気持ちを、察します」


「まあ……正直なところ、お前が出鱈目な報告書を書いている訳じゃないと証明できて、良かったよ」


「そうですね。私も自身の報告書を王都で何も知らなかった頃に見ていたら、夢想の類だと思ったでしょう」


「はは、そう言ってくれると助かる。さて、領主様のもとに案内してくれないか」


「……アマーリエ様は、まだお休みになっています。なので、先に皆さんは旅の疲れをゆっくりと癒やしていただこうかと」


「はあ?もう、午後だぞ?なのに、まだ領主は休んでいるのか?」


「ロルフ、声がデカい!それに、そんな失礼な物言いはしてはダメ」


「……ディアナ。随分と領主様の肩を持つんだね?」


キラリ、アグネスの目が妖しく光った気がする。


「……ロルフ、アグネス。そこまでにしろ。幾ら執行官がそれなりの権限を与えられているからと言って、領地を治める者を侮って良いという道理はない。ディアナの言う通り、失礼な発言は慎むように」


「はあい」


「はっ……仕方ねえな」


「すまない、ディアナ。それで、我々は領主様に会えるまでの間に何をすれば良い?」


「まずは、屋敷内の案内をします。それから、旅の疲れを癒すか街を見回ることを選べますが……」


「ならば、街を見て回らせて貰っても良いだろうか?」


「承知しました。それでは、こちらに……」


いつの間にか、屋敷の扉の前にはジークベルトさんが立っていた。

私がいる場所から距離としては近いのだけど、全く気配を感じ取れなかった。

……どうやら、まだ修行が足りないようだ。


「……ようこそ、執行官どの。御三方の高名は、予々(かねがね)耳にしています」


そう言って、ジークベルトさんは綺麗な所作で頭を下げる。


「この屋敷の管理を任されております、ジークベルトと申します。よろしければ、私めが案内させていただきますが宜しいでしょうか?」


「これは、ご丁寧に。私は、ガスパール。そしてここにいる二人はロルフとアグネス。お手数ですが、屋敷の案内をよろしくお願いいたします」


「承知致しました」



それから、ジークベルトさんを先頭に私たちは屋敷内を見て回った。

勿論、私も彼らについて回る。

余計な言葉を、彼等が吐かないように。


冷蔵庫を始めとする台所の便利道具の数々、お風呂だとかトイレだとか王国のそれらよりも遥かに進化している道具たちに、彼らは感動しっ放し。


いつかの私も、こんな反応だったのかなぁーと思わず遠い目をしていた。


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