執行官の、日常 2
……疲れた。
今日も今日とて官棟を走り回っていたら、いつの間にか太陽は沈んでいた。
キリの良いところで切り上げて、屋敷に戻る。
「あれ、ディアナじゃん」
道中、聴き慣れた声に足を止めた。
目線を声がした方に向けると、そこにはラインハルトさんと外隊の人たちがいた。
「ラインハルトさん! お疲れ様です」
部隊の訓練に参加させて貰うようになってから、ラインハルトさんには良くして貰っている。
こうして見ると、やっぱりラインハルトさんは可愛い。
女性もたじろぐほどの可愛さだ。
正直、屈強な兵士たちの前に立っている光景に、違和感を感じる。
けれども、それで外隊の中で圧倒的に強いのだから、最早詐欺だ。
「ディアナもお疲れ様ー。クリスティンのところからの帰り?」
にっこりと、ラインハルトさんが微笑んだ。
ああ、可愛い……。
可愛いは正義だと同僚が言っていたけれども、こういうことか。
「はい、そうです」
「そっか、そっかー。それじゃ、今日のところは訓練に参加するのは難しいかな?」
「これから、外隊の訓練をされるのですか?」
「うん、そう。夜にしか出ない魔獣もいるからね……討伐の経験を上げるのには、夜間も訓練した方が良いんだよ」
「そうですか。……折角のお誘いですが、今日の私が行ってもお荷物以外の何物でもないかと思います。明日も官棟に行きますし……」
「それなら、それは仕方ないね。クリスティンの前で寝ちゃったら、怒られるだろうし。クリスティン、怒ると怖いしねえ……」
ラインハルトさんは、まるで自分が実際にクリスティンに怒られる体験をしていたかのように……
それを思い出すかのように遠い目をしていた。
「……寝ないですよ、仕事中に」
「真面目だなぁ。ま、今日が駄目なら今度の週末、またおいでよ。新人たちにも良い刺激になるし」
訓練に参加したての頃は、今年入隊した新人たちにも勝てなかった。実力は互角、ないし劣勢。
正直、その事実に凹んだこともある。
けれども凹んでいても仕方ないと、ベティーナとの訓練を続け、時々外隊のそれに参加した。
そうして、少しずつ魔力の質と扱いを磨いた。
おかげで、今は互角あるいは僅かに優勢というところだ。
まだまだ中堅の人たちとは戦いにすらならないし、ラインハルトさんなんて以ての外。
強くなりたいと思っているけれども、なかなか道のりは長く厳しい。
……けれども、それでもそれが諦める理由にはならなかった。
この領地に来て、自分の弱さを知った。
この領地に来て、三百年前の事実に悔しさを覚えた。
この領地に来て、守るために軍に入ったというのに、実際は守られていたということ……しかも、何一つその事実を知らなかったことが恥ずかしかった。
だから、私は強くなりたいと願った。
そして、そのための努力を惜しむつもりはない。
……それにしても、だ。
ラインハルトさんは、強い。
比べるのが烏滸がましいほど、私の力量と彼のそれには大きな隔たりがある。
けれどもそんな彼の実力があって、やっとのことで黄昏の森を一人で踏破できるのだという。
それならば、黄昏の森に出る魔獣よりも圧倒的に強いといわれている魔王の強さは、どれ程のものなのか……正直、想像がつかない。
「ありがとうございます。是非、よろしくお願いします」
ラインハルトさんに頭を下げ、再び歩き始める。
途中、すれ違いざまにラインハルトさんの後ろに控えていた外隊の人たちにも挨拶をしつつ、屋敷に戻って行った。




