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黒薔薇姫は、怠けたい  作者: 澪亜
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執行官の日常


上司から手紙が来てから、ひと月が経った。

そろそろ、追加の派遣員が来るかなーと思う、今日この頃。


朝、目覚めてすぐに支度をして、ダイニングに向かう。


「おはようございます。今日も早いですね」


ジークベルトさんが柔らかな笑みを浮かべて、迎え入れてくれた。


机の上には、美味しそうな朝ごはん。

スープは湯気が立ち込んでいて、出来立てのものだというのが一目で分かる。


この人、何で私が来る時間が分かるんだろう……。


前に一度聞いてみたけど、笑みを深めるばかりで答えてはくれなかった。


そもそも、完全な夜型のアマーリエ様に付き合って、かなり遅くまで起きている筈なのに、何で私よりも早起きなんだろう。


一体、いつ寝ているのか……疑問だ。


「おはようございます、ジークベルトさん。いつも、すいません」


「いえいえ」


疲れを感じさせない笑みと、完璧な所作で席を勧めてくれる。


私はその席に着席すると、ありがたく朝ごはんをいただいた。


「今日も、官棟に行くのですか?」


「はい。やっと、業務に携われるようになりましたので、しっかりとお役に立たないと……っ!」


「ほう……クリスティンから、随分と頑張っているとは聞いていましたが、もう業務に携わるようになるとは。今、一番重要な案件といえば、対魔王戦の備えですが……」


「はい、その案件に携わらせていただいています」


「そうですか。対魔王戦の備えといえば、兵力の配置では防衛部と造営部、兵站の観点から生産部と経労部、負傷者の治療体勢で衛生部、それから全ての予算に関して財務部と、様々な部署が関わる一大案件。その案件に携われるとは……ディアナさんは、クリスティンに随分と認められているようですね」


……官棟に属してないのに、何でこんなに詳しいんだろう。

下手すると、私よりも詳しいのかもしれない。


ジークベルトさんの情報の早さには、いつも舌を巻く。

まあ、ジークベルトさんだから……と、最早諦めの境地に入っているが。


「いえ……私は、まだまだです。ですが、王国軍に在籍していた経歴がありますので、その知識を活かして頑張ります」


「貴女の向上心は素晴らしいですが、あまり気負わずに。困ったことがありましたら、企画のジェームズに頼ると良いでしょう。彼は、中々顔が広い。まあ、先程も申しましたがクリスティンが貴女なら、できると信じたのです。彼女は、よく人を見てますので……きっと、大丈夫でしょう」


「ありがとうございます!」



食事を終えると、すぐに官棟に向かった。


「おはようございます!」


先輩たちも、次々と挨拶を返してくれる。


「おはよう、ディアナさん」


最後に、一番奥に座っていたクリスティンさんが挨拶を返してくれた。

相変わらず、綺麗な人だ。

これで、私の倍以上の年齢だなんて、とても信じられない。


「……ディアナ。兵の配置について、防衛の検討はどうなっているの?」


「昨日、一次案を元に防衛部と外隊と内隊で会議を行っています。領内東部の守りに関して心許ないという指摘の点は、内隊に納得いただき、配置を再検討いただくこととなりました。二次案を明日までに出して貰う予定です。ただ……兵力の運用に柔軟性をもたせるには、ある程度予備兵力が手元にある必要があると思います。その点内隊の方も承知かと思いますので、東部の守りに追加できる人員は限定的かと……」


「そうね……一次案を見た限り、おおよそ全体の二十パーセントが予備として置かれていた筈。確かにそこから人員を捻出するとなると、予備の方が手薄になるわね」


「ですので本日、防衛部と内隊に緊急避難所の制定を造営に依頼することを提言してみようかと思っています」


「緊急避難所……それは、どこから着想を?」


「過去の資料です。劣勢だったドメニクの街で、アマーリエ様たちが住民たちを一箇所に避難させて防衛線を行ったと。これにより、防衛する箇所を限定させることに成功し、兵力を集中させることができたと記録にありましたので。今回は、最初から避難場所を制定してしまうのもありかと」


「よく資料を読み込んでいるわね、ディアナ。……ならば、生産部にも連絡を。市民たちが籠城できるよう、避難場所に予め食料や日用品を運んで貰うことが可能か、提案してみましょう」


「畏まりました」


「それから、避難場所は東部のみならず全域に広げることも造営と防衛に検討させて頂戴」


「はい!」


「ああ、それから……防衛部も分かっていると思うけれども、配置に関してはしっかりとアマーリエ様に見ていただくよう促してね」


「アマーリエ様に、ですか?」


「ええ。三百年前の戦いをご存知ですもの……不備があったら、指摘いただける筈。過去の資料を分析し、最悪のケースに備えた検討をしているとはいえ、実体験に勝るものはないと思わない?」


「そうですね。承知致しました」


「バーディ。今の話、聞いていたわね? 法務部に連絡を。恐らく、既存の備蓄では兵站のみならず全ての避難場所に物資を置くことは難しい筈。領内で買い入れも視野に入れなければならないから、その法整備を打診しておいて」


「了解です」


バタバタ、と皆が忙しそうに動く。

私は対魔王戦の案件でいっぱいいっぱいだが、通常業務も待ってはくれない。

そんな訳で、先輩たちは仕事を二つ三つ掛け持ちすることは、当たり前。

よくもあれやこれやと同時並行で仕事ができるものだと、素直に感動する。


……なんて、余計なことを考えている暇はない。


私はすぐに、内隊の宿舎に向かったのだった。

 


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