執行官は、衝撃を受ける
クリスティンさんの手伝いを始めてから一週間が経った。
正直、魔王の復活を考えると時間が過ぎていく毎に焦りは募るのだけれども。
執行官の私が国の上層部を説得できるだけの力がある筈もなく……正規のルートで報告をあげるしか選択肢はない。
そして既に上司への報告と、魔塔へ確認するための早馬は出しているから、今の私は完全に手持ち無沙汰だった。
という訳で、今日もクリスティンさんのところでいつも通り仕事をした。
この一週間で、大分私の中の常識は破壊されている……けれどもだからこそ、もう多少のことでは動じない自信がある。
……筈だったのだけれども。
それは、私が家に帰ってからのことだった。
上司から届いた手紙を読んで、すぐにでもアマーリエ様に報告をしなければとアマーリエ様の元に向かっていた。
魔王の復活に関して確認するために、新たに官僚を派遣するという上司の判断はよく理解できる。
むしろ、まともに取り合ってくれて安堵したぐらいだ。
とは言え、新たな派遣員をアルトドルファー伯爵領の人たちが受け入れてくれるかは微妙なところだ。
ただでさえ、王国の威光はこの国に全く届いていない。無関心ならまだ良い方で、不審感すら感じている人たちすらいるだろう。
そんな中、王国から新たな派遣員が到着すれば、拒絶反応を示すんじゃないか。
そんな訳で、アマーリエ様にはすぐにでも報告が必要だと思った。
それで、私はアマーリエ様のもとに向かったのだ。
そして私は、驚愕の光景を目にすることになった。
「アマーリエ様、各地の人口推移を踏まえた備蓄計画について説明申し上げます」
「……概要は分かったわ。そういえば、新種の小麦開発についてはどうなったの?」
「実験用の畑に植えて経過を観察しています。順調に育っているとのことで、あと二ヶ月程で収穫が可能とのこと」
「そう。二ヶ月後にまた状況の報告を」
……アマーリエ様が、仕事をしている!?
ここ最近で一番の衝撃的な光景に、私は一瞬固まった。
何人かの領官に囲まれ、次々と説明を受けては時折書類にサインをしていた。
呆然としている間に仕事が終わったらしく、彼女を囲んでいた人たちは退室していった。
「あー……疲れた」
そして彼らが去った後、部屋からそんな声が聞こえてきた。
「ディアナ。部屋の外にいるんでしょう?遠慮せず、入って来なさいな」
アマーリエ様の言葉に驚いて、ビクッと体が反応する。
「盗み聞きするつもりはなかったのですが……」
我ながら、言い訳にもならない釈明だなと思いつつ部屋に入った。
「別に良いわよ。言ったでしょう?隠すものはない、と」
そう言いつつ、彼女はソファーに寝転ぶ。
「ちなみに、いつから気づいていたんですか?」
「結構前から気配を感じていたわ」
「すいません。至急相談したいことがあったのですが……お伺いを立てるべきでした」
「良いのよ。普段だったら、ゴロゴロしているのだもの。今日はたまたま、よ。たまたま。……皆も律儀よね。わざわざ私に報告しに来るなんて」
「……皆がアマーリエ様に報告をするのは、当然のことにございます」
ジークベルトさんが、紅色の液体が入ったグラスを差し出していた。
「でも、ジークベルト。私、殆ど決定権を持っていないのよ? 何より、専門の人たちが話し合ってくれた方が良い案を出すに決まっているじゃない。……間に受けないでね、ディアナ。ジークベルトやここにいる皆は私を持ち上げてくれるからこんな風に言ってくれるけど、本当に私は単に話を聞いてサインをしているだけよ」
「ご謙遜を、アマーリエ様。彼らと貴女様では政務に携わった年季が異なります。故に、知識量では他の誰も貴女様に敵わないでしょう。何より、皆が申しておりますが、貴女様の発想は非常に斬新で面白いとのこと。それ故に、皆がこぞって貴女様に相談したがるのですよ」
「年季ねえ……まあ、生きてきた年数は確かに長いけれどもね、所詮私は掻い摘んでいるだけ。本職の皆の知識の深さには、到底敵わないのだけど」
アマーリエさまは、ジークベルトさんから受け取ったグラスを仰いだ。
「それで? ディアナは何でここに?」
「失礼致しました。えっと、報告がございまして……。魔王の封印が解けることを、王都の上司に報告したところ……上司より、新たに二名執行官を送り込むとの返答がございまして」
私の報告に、アマーリエ様は眉を顰めた。




