上司は、溜息を吐く
「……ディアナから、報告が届きました」
「そこに、置いておいてくれ」
伝令役の男は指示した通りの場所にその手紙を置くと、さっさと去って行った。
暫く手元の仕事に集中し、一区切りがついたところで息抜きも兼ねて件の報告を手に取る。
……結論からいうと、残念な事に全く息抜きにならなかったが。
最初は、良い。
領主と共に領都を出て、国境近くの街に滞在。
そしてそのまま視察という名の観光をしたとのこと。実に、ほのぼのしい。
けれども見て回った施設が綴られている辺りから、段々と雲行きが怪しくなってくる。
……官棟? 議事堂?
聞いたこともない単語に、すぐには理解が追いつかない。
ホワイトスパイダーの衣服が当たり前に売られている?
ホワイトスパイダーの服って、この前オークションの目玉商品になって、とんでもない金額で伯爵が競り勝ったって騒ぎにならなかったか?
そして追い討ちのように、記載されていた魔王に関する記述。
……魔王の封印は三百年しか保たず、その封印は今年に解ける?
魔王の封印から、瘴気が漏れ出ている?
三回ほど目を擦って読み直すが、見間違いではない。
冗談ならもっと面白いことを書いてくれよ……と、現実逃避でそんなことを思った。
重い溜息を吐き、もう一度真剣に手紙と向き合う。
可能性としては、ディアナが嘘をついている。あるいは、彼女の勘違い。
そうだったらどれだけ楽なことか……と思うものの、その可能性は限りなく低い。
彼女は、執行官として選抜された有能な臣。
魔王絡みで嘘をつく必要はないだろうし、確認不足で報告書を上げるなどという自分の評価を下げるような真似をすることもないだろう。
これは何かしら彼女は確証を掴んでいて、けれども彼女自身信じなくない、信じられないという思いで書いているというのが一番ありえる。
そうなると、次に取るべき方策は二つ。
一つは、魔塔への確認。
そしてもう一つは、何人か部下を派遣させて改めて真偽を確かめること。
事は、魔王に関するものだ……このまま放っておいて、万が一のことがあったら大惨事では済まない。
さりとて、今の不確かな情報だけではとても上に報告することはできない。
このまま見なかったことにして、面倒ごとを回避したいという誘惑を押し留め、彼は取るべき方策を実行するために再びペンを取ったのだった。




