黒薔薇姫は、語った
私の問いは彼女の心情を言い当てられたらしく、彼女は困ったように言葉を詰まらせた。
再び、左右から異様な圧を感じる。
「……落ち着きなさいって。彼女の疑問は、間違ってないわ。むしろ、素直で良いじゃない」
「アマーリエ様……っ!」
カイが代表して、声を荒げた。
「貴方たちだって、気づいたでしょう?……彼女のさっきの質問。単に私が魔王の親族ということだけでなく、私自身が鬼に堕ちる可能性に気がつき、けれども封印の要として代替が不可能ということを知った。その上で、怖がって見せたのよ。普通、諦めるわよね。だって、私がどんなに怖くても、私がいなければそれ以上の恐怖が襲ってくるのだもの。従順なフリでもするんじゃない?」
「そうかもしれませんが……っ」
「……まあ、その上で話すけど。私、これでもこの領地を、領地の人たちを愛しているのよ。そして領地の人たちは、私を受け入れてくれた。じゃなきゃ、三百年……この地を守っていなかったわ」
そう切り出して、私は彼女を見据える。
「……この三百年、一分一秒が酷く長く感じたわ。苦しくて、仕方なかった。彼と共に魔王を封印してから、最初の五十年……ガムシャラに働いた。魔獣を殲滅し、壊れた街を立て直すことに注力した。そうすることで、彼がいないことから目を逸らそうとした。でも、自分を誤魔化すことなんてできなくて……その後の五十年、喪失感に苛まれた。同時に彼の血を取れない私は、身体的にも弱った。そしてそれから百年……シャリアンデにいることが辛くなって、住まいを領都に移した。領主の仕事と魔獣と戦う時以外、ほぼ泣いて暮らしていたわね。心も身体も渇いて、何度も封印を解こうとした。その度に、領地の皆を思い出して留まった。それから今まで約百年……涙は枯れ果て、何も感じなくなり、ただ時が経つのを待つだけになった」
彼女の表情が、歪んだ。
それは同情なのか、憐憫なのか、後悔なのか……それとも今尚、私に恐怖しているだけなのか、複雑なその表情から彼女の想いは読み取れなかった。
「正直……エメルハルトの願いなんてどうでも良かったし、爵位なんて以ての外。人の国の爵位なんて貰ってもしょうがないし、エルマやカミルを守るために彼らが生きている間は封印は維持しても、森に引き篭もってようかなと思っていたぐらい。でもエルマやカミル、他にもこの地で出会った人たちが私を受け入れてくれたから……受け入れてくれて、こんな不安定な私を支え続けてくれたから、封印を維持した上で、この地に住み、魔獣の侵攻から街を守ることを選んだ」
私は、周りを見る。
「……皆、何か言いたいことはある?」
私の問いかけに一番に口を開いたのは、ラインハルトだった。
「アマーリエ様が、怖い?ハッ……君は、そもそも前提が間違っているよ。アマーリエ様が、その戦いでこの街を守ってくれなきゃ、この街は全滅、僕たちも生まれなかったんだ。僕たちが今ここに在るのは、アマーリエ様のおかげ。だから、僕たちの命はアマーリエ様のもの。ちなみにコレ、僕の個人的な意見じゃなくて、領民の総意」
「……救いを齎してくれた人を、恐れ、拒絶するのが王都流ってことか?それは、人としてどうなんだよ……っ」
ラインハルトの言葉に続いて、カイが言葉を紡ぐ。
「アマーリエ様が吸血鬼だとか、魔王の義妹だとか、どうでも良い。俺たちはただ、アマーリエ様が選び歩んできた軌跡を知っているからこそ、アマーリエ様その人を信じているだけだ……っ!」
カイのその叫びは、静かに部屋に響き渡った。




