黒薔薇姫は、答える
「それから私は外から封印を施し、シャリアンデに戻り魔獣を殲滅したの」
私が転生者ということ以外、包み隠さず話した。
魔王が私の義兄ということ、そして魔王と共に私の婚約者が封印されていること。その全てを。
「で、後はさっきも言った通りよ。魔王を封印した者として、そしてその封印を守る者として、エメルハルトより爵位を受け取り、この地を任されたわ。まあ……前の領主たちは民を見捨てて逃げたということで、爵位を取り上げられたところだったし、黄昏の森近くの領主なんて誰も代わりたい人なんていなかったから、丁度良かったというのもあるのでしょうけど」
「……幾つか、質問を宜しいでしょうか?」
「ええ、どうぞ」
「鬼に堕ちる、ということはどういうことですか?」
「吸血鬼にはね、『鬼』としての本能があるらしいの。鬼になると、魔力を含め戦闘力が高まる代わりに攻撃的になるみたい。そして魔獣を従えることもできるようになる。けれども普通は自我の奥底に封じられていて、滅多に出ることはないみたいだけど」
吸血鬼同士の争いの時には、多くの吸血鬼が鬼に堕ちたと聞く。
そして魔獣を従え、人間まで巻き込み戦った……と。
そのあまりに悍しい戦いぶりに、生き残った吸血鬼たちが忌避し『堕ちる』と表現するようになったのだとか。
けれども、吸血鬼の子孫が鬼に堕ちたことは聞いたことがない。
だから未だに、ブルーノが鬼に堕ちたことが信じられない。
「……アマーリエさまも、その、鬼に堕ちる可能性もあるということですか?」
瞬間、左右から怒気が感じられた。
彼女の心配は尤もだと私は思うけど。
何せ、私が鬼に堕ちるということは第二の魔王が生まれる可能性があるのだから。
「さあ?私も鬼に堕ちる可能性は否定できないわ。けれど、堕ちるかどうかは分からないというのが、正直なところ。怒りや哀しみ、絶望がトリガーになるとは聞いているけれども……あの戦場で、それらの感情を味わい尽くした割には、その兆候は全く見られなかったから」
だから私は、気にするなとジェスチャーをしながら質問に応えた。
「その、封印についてですが……」
先ほど私が怒ったことを気にしてか、聞き辛そうにディアナが言葉を紡ぐ。
だから、代わりに私が彼女が聞きたそうなことを先回りして言葉にするべく口を開いた。
「まさか、魔王の封印が戯れに作った魔法だとは思わなかったでしょう? まあ……だからアルベルトの中でも優先度が低くて、あの時点で未完成なものでしかなかった。効果は三百年。私が死んだり魔力の供給を止めたら、すぐにでも解ける脆いものよ。ああ、それと……未完成なものにどんな魔法を重ね掛けたところで、今の封印にどんな影響を及ぼすか分からないから、誰も手をつけられなかったのよね。封印を維持しようとして、逆に封印が解けてしまったらお笑いだもの」
「ちなみにその、魔力はどれぐらい持っていかれるんですか?」
「……私の全魔力量の半分、ってところかしら?」
「この領地を基準ですが、一般的な人間を百人集めて、一日保たない量です」
捕捉するようにヴォルターが、口を開く。
「……ひゃ、百人。この領地基準で……ですか」
何故かディアナは衝撃を受けたように呟いていた。
そして私が質問に答える度に、段々と彼女の顔色が悪くなっている気がする。
「なら、その……皆さんは、エメルハルト王は……知っていたのですか?アマーリエ様が吸血鬼だということを、義兄が魔王だということを」
「ええ、知っていたわ。だって、全てを話したのだもの」
三百年魔法を維持する……そんなこと、普通の人には不可能なことだ。
そもそも、三百年なんて生きていられる筈がないのだから。
義兄が魔王だということで、私が吸血鬼ということで受け入れられなかったら、それはそれで良い口実になるとすら。
「……どうして……っ」
思わず、と言った体で彼女は呟いた。
その瞳には、明らかに私への恐れが映っている。
「……私を受け入れることができたのか、かしら?」
だからこそ、私は笑った。




