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黒薔薇姫は、怠けたい  作者: 澪亜
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黒薔薇姫の、過去15

あまりに凄惨な状況を見て見ぬ振りもできず、私たちは次第にシャリアンデから他の街も含めて防衛の支援を始めた。


それは、消えたブルーノを探すためでもあった。

……勿論、彼と決着をつけるために。



ブルーノは、魔獣に襲わせるばかりでなく、自身も街を襲っていた。魔獣を操る姿も度々目撃され、いつしか彼は魔獣の王、魔王と呼ばれるようになっていたのだ。


流石に私とアルベルト二人が一緒にシャリアンデを離れる訳にもいかなかったので、片方がシャリアンデの防衛を担い、片方が他の街への支援を担う。


そうして出向いた先で出会った人々は……誰もが、怯えていた。震えていた。怒っていた。泣いていた。


その様を見る度に、罪悪感に心が叩きのめされた。


圧倒的にこちら側の戦える数が足りず、救うことができたのはほんの一握り。


その事実を見せつけられる度に、少しずつ心が死んでいった。


……それでも。ブルーノが作り出したこの惨状から目を背けてはならないと……逃げることは許されないと、戦い続けた。
































そうして、どれだけの日が経っただろうか。

刻一刻と積み重なる犠牲と罪悪感に、心が完全に押し殺されそうになっていた頃のことだった。


『何……この魔力……』


その日、私はシャリアンデの防衛を担い、粗方魔獣を殲滅し一息ついたところで、強力な魔力がぶつかり合う気配を感じ取った。


あまりに強い魔力の残滓に、唖然とする。


ふと周りを見れば、私だけでなくシャリアンデの警備隊の人たちも感じ取ったらしい。

明らかに皆、恐れ、混乱していた。


けれどもその様を見て、逆に私の心は冷静さを取り戻せた。

惑ったのは、ほんの一瞬。


『静まりなさい』


次の瞬間には、彼らに向かって言葉を紡ぐ。


『……アマーリエさま』


誰かが、私の名を呼んだ。

その彼は、不安を押し殺さないような表情で、私を見ている。


『……みっともない』


私の暴言に、ある者は怒りを露わにし、またある者たちは俯く。


『貴方たちは、何のために警備隊に入ったの?戦っているの? 貴方たちの後ろにいる、大切な人たちを守るためでしょう。恐れるな、とは言わないわ。……だけど、恐れを見せてはダメ。俯いてはダメ。貴方たちがそれらを見せれば、貴方たちの後ろにいる人たちはその何倍もの恐れと絶望を感じてしまうから』


後半は、自分に言い聞かせるように呟く。


『堂々としていなさい。たとえそれが強がりだとしても、その姿に、人々は勇気づけられるから。さあ、皆。いつものように街を守りましょう。そう、いつも通りよ』


パンパン、と皆の行動を促すように手を叩いた。

皆ハッと我に返ったように表情を引き締め、行動し始める。


『私は魔力の発生源を見てくるわ。貴方たち、もし拙い事態になったらこれを上に向かって打って。すぐに、戻るわ』


アルベルトが渡した信号弾を渡してから、黄昏の森に入った。







黄昏の森の魔獣を始末しながら、先に進む。

未だ魔力のぶつかり合いは続いていた。


そうして辿り着いた先は……私たちが住んでいた街。

今は廃墟となったそこで戦っていた一人は、アルベルト。そしてもう一人は……。


『やっぱり……!』


ブルーノが、そこにいた。


『ぐっ……』


アルベルトが、吹っ飛んできた。


『アルベルト!』


『大丈夫』


私の叫びに、けれどもすぐにアルベルトは立ち上がる。

私は彼を心配することを止め、彼の隣に立った。


そして私と彼、それからブルーノの戦いが始まった。

持てる力を全て使い、互いに互いを殺すための技を放つ。

戦いは苛烈を極め、廃墟となった街はいつの間にか更地になった。



“勿論、楽しいことばかりじゃないよ。けれども街の秩序を保ち街の人を魔獣から守るこの仕事を、僕は誇りに思っているよ”


……戦っている最中、他のことに気をとらわれることなんて愚の骨頂。


それはわかっていたけれども……あの場所で、ブルーノと戦うのは辛かった。苦しかった。

在りし日の記憶が、思い出されて。


どこで、ボタンをかけ間違えたのだろうか。運命の歯車は、狂ったのだろうか。

何が、彼を追い詰めたのか。何が彼を、こうさせてしまったのだろうか。


魔法をぶつけ合う度に、殺すために刃を向けるために涙が溢れそうになった。


『ちっ……』


戦いの天秤は、僅かに私たちの方に傾いていた。

荒い息を隠せず、ブルーノは僅かに後ろに下がる。


『……忌々しい、時代の落とし子たちよ。何故、お前たちは隠れ住む?何故、お前たちはその力を活用しない?私の元にくれば、お前たちは世界がこの世のあるとあらゆるものが手に入るというのに!』


ブルーノの叫びに、私は違和感を覚えた。

少なくとも私の記憶の中の彼は、こんな口調で話すような人ではなかったから。

けれども、これが鬼に鬼に堕ちるということなのか、と半ば無理矢理自分を納得させる。


『そこの女!お前は、私と共に来い!その力、充分に活用させる場を与えてやる』


ブルーノの誘いに私は笑った。

アルベルトを誘わなかった理由が、容易に想像できて。


『行く訳ないでしょ。アルベルトが断ったのに、私だけが行く訳がない』


『……それ以上、兄さんの声で戯言をほざくな』


アルベルトは、怒りを露わにブルーノに近づく。

そして手に持っていた血の(ブラッディ・ソード)を振るった。


『ちっ……!』


ブルーノはその斬撃を避けつつ、魔獣を召喚する。


『アマーリエは、そいつらを!』


『ええ!』


目の前には、その場を埋め尽くす程の魔獣。


『炎神の大槌』


それらに向かって、魔法を放った。

巨大な炎の槌が、降りてくる。

そしてそれが地面に当たった瞬間、多くの魔獣が燃えた。

その炎は槌を中心に四方八方に広がり、魔獣を次々と打ち滅ぼしていく。


けれども、すぐに屠った魔物の数だけ魔獣が再び現れる。

それも何故か攻撃をしている私の方ではなく、シャリアンデの方に向かって走っていた。


まるで、雪崩のようだと思った。

次から次へと現れ、一直線に走り猛威を振るう様は他に例えが思いつかない程にピッタリな言葉。


そして私もまた、それらに対抗するように次々と魔法を放つ。                    


……けれどもやっぱり、圧倒的に人手が足りなかった。




内心焦りながら、それでもブルーノを逃したくなくて、その場から離れるという決断ができなかった。


ついに、シャリアンデから信号弾があがる。


……どうしよう。街の、人たちが。


惑った瞬間、魔獣が私の腕を喰いちぎった。


『あぁ!』


あまりの痛みに、絶叫する。


『アマーリエ!』


そのせいでアルベルトもまた、ブルーノから手痛い一撃を受けてしまった。


『いいのか?街に行かなくて。お前たちの大切なお仲間が、皆、死ぬぞ?』


ブルーノは、彼らしくない嘲笑を浮かべながら私たちに囁く。


そうこうしている内に、次々とシャリアンデの方へと魔獣たちが向かっていった。


……行かなければ。あそこには、エルマやカミルたちがいる。


けれども、ここでブルーノを逃してしまえば……また、犠牲が積み重なっていく。いつまでも、この地獄は終わらない。


その私の悩みを見透かしたかのように、魔獣が動き出す。

そして、目の前のブルーノが私たちに向けて魔法を放とうとしていた。それも、魔力の流れからして強そうなそれを。


アルベルトが笑った。


『冷蔵庫だ、アマーリエ』


『え……』


その瞬間、アルベルトはブルーノの後ろに控えていた魔獣ごと空間を隔離させた。


『な……何だ、これは……っ!』


ブルーノは逃げようとしていたが、既に逃れられないほどに渦に飲み込まれている。


『これ以上……兄さんの体で罪を重ねさせる訳には、いかないんだ』


黒い渦が、全てを飲み込む。

アルベルトと共に。


『アマーリエ。………して、くれ……』


『アルベルト……っ!』


『……ご……。……むよ』


呑まれいくアルベルトの手を掴もうとしたけれども、触れる前に消えて行ったのだった。




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