黒薔薇姫の、過去14
けれども、いつまでもそこに蹲っている訳にはいかなかった。
私たちは、生き残った人達を連れて里を出る。
そして、エルマとカミルが待つ街に到着すると……そこには、私たちの街と変わらない地獄絵図が広がっていた。
街を守ろうとして、けれども力が及ばず死んでいった警備隊の人たち。
街の人たちに襲いかかる、数多くの魔獣。
とは言え、私たちの街とは決定的に違う状況だ。
多くの犠牲が出ているということでは私たちの街と同じだけれども、まだ、この街には多くの人が生きている。街は、壊滅していない。
まだ、間に合う。まだ、希望はある。
だから、私とアルベルトの行動は早かった。
『疾風の斬撃』
『風巻の征圧』
ほぼ同時に放たれた魔法。
アルベルトの斬撃が魔獣を切り裂き、私の風が圧となって魔獣たちを押し殺す。
そうして、私たちは魔獣をありとあらゆる風魔法で屠り続けた。
次の日の朝……完全に、魔獣を殺し尽くすまで。
『……終わった?』
魔獣の屍を前に、私が呟く。
朝日が眩しくて、目を細めながら。
『そうみたいだね』
『アマーリエ! アルベルト!』
遠くから、エルマとカミルの声がした。
『二人とも……どうして……』
『暴風の……何だっけ? とにかく、魔法が消えたから。それで、二人がこっちで戦っているって聞いたから……』
そう言えば戦いの最後の方、暴風の檻を解除していたっけ。
エルマの視線を辿って周りを見れば、いつの間にか私たち四人の周りには多くの人たちがいた。
ありがとう。
二人のお陰で、生き永らえることができた。
多くの人たちから、そんな声が届けられる。
その感謝の言葉に、嬉しくなって……けれども同時に失ったものの多さを思い出して哀しくなって……心が痛くなった。
そしてその痛みを肯定するかのように、涙が溢れる。
……けれども、それも一瞬のこと。
『……ごめん、少し休むね』
疲れ切った頭と体では、それ以上考えることも動くこともできず……私は倒れ込む。
『カミルの家に、僕らの街の人たちを匿わせて貰った。悪いけど、彼らに食事を与えておいて』
横にいたアルベルトも、ほぼ同時に倒れ込んだ。
そして私たちは、そのまま意識を失うように眠りについたのだった。
大きな怪我はなく、程なくして目が覚めた。
カミルとエルマは涙ながらに私たちの無事を喜んでくれた。
そして、それから私たちはシャリアンデで暮らし始めた。
シャリアンデの住人たちは大変な状況の中、私たと共に来た街の人たちを含めて受け入れてくれた。
否、大変な状況の中だったからこそ、魔獣と戦える戦力になり得る私たちを受け入れてくれたという面もあったのだろう。
私とアルベルトは、望まれるままに街を襲う魔獣との戦いに身を投じた。
とは言え、それは私もアルベルトも納得してのことだった。
そうでもしなければ、おかしくなってしまいそうだったから。
贖罪、憎悪、憤怒、悲嘆……それらが入り混じって心を蝕み、とにかくそれをぶつける先を私たちは求めていたのだ。
幸いにも、魔獣を撃退する度、街の人たちは私たちに感謝をしてくれた。
平時だったら、強力な魔法を使う私たちを人々は恐れただろう。
けれども、当時はそんなことを言っている余裕もないぐらいに死の恐怖が常に隣にあった。
何より、私たちが身を落ち着けたのがシャリアンデということも良かった。
私たちが恐れらる前に、エルマやカミルそして二人を通して知り合った人たちが私たちを常に肯定し続けてくれたから。
そうして血生臭くも日々は過ぎていった。
シャリアンデは魔獣を撃退し続けたけれども、他所の街は次々と魔獣の波に呑まれていった。
あっちの街が壊滅したらしい。
こっちの街が全滅したらしい。
そんな会話が日常になるぐらいに、次々と街とそこに住む人々が消えていった。
そうこうしている内に、領主とその一族または裕福な商人たちが逃げ出した。
……民を、見捨てて。
領主のとったその行動に人々は当然のことながら怒りを露わにした。
私の周りだと、カミルがその筆頭だった。
けれども、怒れる気力が残っていたシャリアンデはまだマシだったのだろう。
魔獣を撃退し続けることに、人々は僅かながらにも希望を見出していたから。
問題だったのは、他の街の人々だった。
私はシャリアンデからあまり離れられなかったから伝聞でしかないけれども、魔獣の侵攻から生き残った人々や今後襲われるであろう街の人々は、死の恐怖に怯え、あるいは自身の身を憂い、絶望したという。
その時点でやっと事の大きさを知った王国が、討伐隊を結成し黄昏の森近辺の領地に派遣した。
やっと届いた希望の報せに、人々は歓喜した。
けれども、討伐隊は呆気なく散っていった。
ブルーノを倒すどころか、魔獣の侵攻すら止められず。
結局、被害はそれまで通り刻一刻と増えていくままだった。




