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黒薔薇姫は、怠けたい  作者: 澪亜
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黒薔薇姫の、過去11

それから半年間、怒涛のように過ぎていった。

たまに、人間の街に出てはエルマとカミルと衣装やセットの話し合いをしつつ、結婚式のための打ち合わせやら新生活の準備をする日々。

結婚は楽しみだけど、そのための準備は色々と大変なんだな……と、割と早々に悟った。



そんな訳で、その日はゆっくりしようと二人でのんびりと家で過ごしていた。


『そういえば、アルベルト。最近夜遅くまで起きているみたいって、お義母さんから聞いたけど、そんなに根を詰めて何しているの?』


『ああ、ちょっと魔法の研究でね』


『ふーん?』


アルベルトに差し出された紙を見て、私は思わず頭が痛くなる。


『何、この難解な式。四大元素じゃないし……私たち固有の属性でもない』


魔法式は、それぞれの属性毎に特徴があって、何個も見ていれば、大体その式がどの属性に当て嵌るのかぐらいは分かる筈なのに、アルベルトの式は皆目見当がつかない。


『ホラ、前に冷蔵庫の魔法を改良できないかなって話をしていただろう?』


『そうね』


『発想を変えて、いっそのこと冷たいものは冷たいまま、温かいものは温かいままにできないかなって思ったんだ』


『……待って。この魔法、まさか……』


『あれ、まさかもう分かった?』


『特定の空間を切り出して、その空間の時間を止める。そんな魔法?』


『ご名答。流石、アマーリエだね』


『……よく、そんな研究をしようと思ったわね』


『アマーリエが前世で見たっていう魔法の物語とかを聞いて、思ってたんだ。僕たちが四大元素に囚われているだけで、実際魔法の可能性は無限大なんじゃないかって。現に、僕たちは四大元素以外の魔法が使えるだろう?』


『……そうね』


『それで研究を始めたんだけど、中々やっぱり難しいね。結構時間をかけてるんだけど、まだまだ使えるレベルになっていない』


私はアルベルトの式を見ながら、考える。


『ここからここは、空間を指定する式でしょう?で、そこから先の式は分からないけれども……時間を止めるための式かしら。それで更に先は空間を閉じる為の式? あー……でもこれって、莫大な魔力量を使うんじゃない? 一人じゃ到底使いこなせなさそう。それに、一人じゃ空間を閉じることもできないんじゃない?』


『当たり。僕とアマーリエ二人の魔力量があって、やっと発動ができる魔法なんだよね。それに一人が空間の中から、それでもう一人が外から空間を閉じないといけないんだ。つまり、時間が止まった空間に一人は残らないといけない』


『確かに、これじゃ使えないわね。私たちの魔力量は一般的じゃないし……何より閉じるたびに一人が取り残されるなんて。閉じた空間を開けるのは一人でもできるってことは、救いだけど』


『そうなんだよね。それにこれ、空間を閉じたままにするには、外から閉じた人の魔力を消費し続けなければならないんだ』


『うーん、それはしんどいわね。ちなみにここの式、どういう意味なの?』


それから私とアルベルトは、新たな魔法式の議論に熱中した。


そうしてあっという間に時間は過ぎて……夕刻、私はアルベルトの家を出た。


帰りは散歩をかねて、街をぐるりと一周。

そこまで大きな街でもないから、端から端まで歩いてもそんなに時間はかからない。


街全体が整備されていて、桜のような花を咲かせる大木を中心に碁盤の目のように街道が整備されている。

その大木より南側が居住区域で、私やアルベルトの実家があった。

そして北側には、主に行政とか街のための施設が並んでいる。


北側の施設の一つ、警備隊の訓練場で柵越しによく見た人影が目に入った。


『あら、ブルーノ義兄さん!』


柵に寄り、声をかける。


『アマーリエ。久しぶりだね』


ブルーノもすぐに気がついて、柵に近づいて来てくれた。


『そうね。義兄さんったら、いつもアルベルトの家に行ってもいないんだもの』


『ははは、ごめんごめん。つい、訓練に夢中になっちゃって』


『もう……職務に夢中なのは素晴らしいけれども、たまには休まないと。アルベルトも心配していたわよ』


私やアルベルトの周りには、何だか仕事大好き人間が多くいるような気がする。

自分自身がぐうたらとしている自覚があるので、余計そう思うのかもしれないけれども。


『体が資本の仕事だから、体には気を遣っているよ。ただ、僕自身が鍛えることは、隊全体に役立つ。隊の負傷率を下げることにね。だから、できる限り時間があるときには鍛えたいんだ』


『流石、警備隊のエースと呼ばれる人の言葉は違うわね』


『はは、恐縮です』


『義兄さんは仕事、楽しい?』


『勿論、楽しいことばかりじゃないよ。けれども街の秩序を保ち街の人を魔獣から守るこの仕事を、僕は誇りに思っているよ』


そう言ったブルーノの瞳には、自身の言葉を肯定するかのような強い光が宿っていた。


『そっか。それは素晴らしいわね』


『そういえば、アマーリエもアルベルトと一緒に仕事を始めたんだよね?楽しんでる?』


『うーん……それがまだ、本格的には始まってないのよ。今のところ、アルベルトが過去発明したものを改良するぐらい。だから、これからが楽しみってところかしら』


結婚するにあたって、アルベルトが仕事を始めた。

結婚するのに、いつまでも実家に頼りっぱなしではいられないと至極真っ当な理由で。


アルベルトは頭良し、運動神経も良し、オマケに魔法の腕も良しでそれこそ引く手数多だった。


それでどんな仕事を始めるのかと思いきや、過去発明した魔法陣を使った道具や開発した魔法で収益を得る会社を興した。


過去私の無茶振りで開発し、世に出ていない魔法陣や魔法はそれこそ多々ある。

それらを売りに出すだけで、十分に生きていけるだけの金は稼げるし、何より時間に融通がきくのが良いとアルベルトは言っていた。


私たちの時間は無限にあるけれども、少しでも一緒にいる時間を増やしたいと言ってくれた時には、赤くなる顔を隠すので精一杯だった。


結局私もその会社に就職したから、彼の目論見通り四六時中一緒にいるようなものだ。


私もアルベルトと小さい頃から一緒にいて魔法に関してあれやこれやと議論している内に、それなりに魔法関連の知識は溜まっていた。おかげさまで、当時彼が作った魔法の改良を任される程には仕事ができている。


『アルベルトが……二人が、羨ましいよ』


そう言ったブルーノの声が沈んでいるような気がした。


『義兄さん?』


『二人の店が上手くいくことは、目に見えているからね。今からその光景が目に浮かんで、眩しく思っただけだよ。是非とも新作が出たら、教えて欲しいな』


けれども先程のそれは気のせいだったと思うぐらいに、ブルーノの声色はいつも通りだった。


『うん、お得意様には勿論入念に宣伝させていただきますよ』


『はは、それは楽しみだな。……そういえば、アマーリエ。今更だけど、珍しいね。アマーリエが一人でこの時間に出歩いているの』


『そうかしら?』


『そうだよ。アマーリエが一人で歩くのって、ウチとアマーリエの家の往復ぐらいじゃないか?他、基本的にアルベルトと一緒にいるよね』


『あー……そうかもしれないわね』


ブルーノは鋭いなあと思い、私は苦笑いを浮かべた。


『ちょっとね。モヤモヤしてて、落ち着けるために散歩がしたかったの』


『なんか、あった?』


『……アルベルトが、人気なのは仕方ないと思うのよ?』


……あ、ダメだ。口に出したらモヤモヤが更に大きくなって燃えてきた気がする。


『けれどもね、こんな風に生まれてきた私たちを散々避けたり陰口を叩いていた女たちが彼に言い寄る姿を見たら、苛つくのよね』


前にエルマに女たちが近づいて苛つかないのかと聞かれた時、私は笑って答えた。

彼女たちは、別にと。


その答えが、これ。

彼女たちは別にどうでも良いけど、この里の女たちは話が違う。

過去散々私たちを避けて陰口を叩いておきながら、今更掌を返したように女たちが近づいてくるのには苛ついて仕方ない。

昨日実際その光景を目にして、最高潮に苛ついた。


『本人に怒っても仕方ないし、彼が私のことを愛してくれているのは充分分かっているの。だから彼本人に怒っても仕方ないって、文句は言ってないけれど』


そこまで言い切ったとき、何故かブルーノは笑い出した。


『そのことは、アルベルト本人に言った方が良いと思うよ、アマーリエ。何せ彼も、同じようなことで苛立ってみたいだから』


意外なブルーノの言葉に、私は素直に驚く。


『……そうなの?』


『うん。……これから長い人生、一緒に歩んで行くんだからさ。たまには思っていること、素直にぶつけると良いよ』


良いこと言うなあ、と私は素直に笑う。

ブルーノの人徳、というのもあるかもしれないが。


『そうね。ありがとう、義兄さん』


『いえいえ』


『訓練の邪魔をしちゃって、ごめんなさいね。それじゃ、また』


『うん、またね』


私は、ブルーノに別れを告げて、その場を立ち去った。

そして、アルベルトの家に戻ったのだった。


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― 新着の感想 ―
[一言] 封印にな二人が必要だから300年という約束で外で封印維持をアマーリエが、中では彼氏が封印やってるのか(時間停止中) そりゃあアマーリエ辛いよね…。 王国との約束破るのに周りも含めてキレるの…
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