黒薔薇姫の、過去10
あと数話過去編が続くかと思いますが、お付き合い頂けますと幸いです。
『……た、食べ過ぎた……』
食事会の帰り、カミルは真っ青な顔をしていた。
『だ、大丈夫?』
『良いの、良いの。放っておきなって。お金を忘れた挙句、お金を貸すって言ったのに借りはつくらない!とか訳の分からないこと言って、大食いチャレンジで懸賞金を狙うなんてバカなことをするからこんなことになっているんだから。完全に、自業自得』
エルマは冷たく切り捨てて、さっさと歩き出す。
『でも、凄かったわよね。あれだけ飲み食いした後に、成功させちゃうんだもの』
『まあ、食べ溜めの癖がついているからね。私もカミルも仕事に熱中すると寝食忘れるでしょ?そんな生活続けていたら、食べられるときに食べよう!って体がなっているのよね。それにあのチャレンジ、失敗したら軽く今日の会計の倍は持ってかれちゃうからね。万が一失敗したら、本末転倒もいいところ。そりゃ、失敗できないわよね』
『……確かに』
『エルマの言う通り、自業自得かもしれないけど……このまま放置していたら暫く動けなさそうだね』
アルベルトはそう言って、荷物を持つようにカミルを脇に抱えていた。
『……アルベルト。貴方って、すごい力持ちだったんだね。その細い体のどこに、そんな力があるの?』
そんなアルベルトの動作に驚いたらしいエルマは、目を見開いて呟く。
確かに軽々しくカミルを抱えるその様を見れば、驚いても仕方のないことかもしれない。
『一応、鍛えているからね。家に届ければ良いかな?』
『う、うん。私も一緒に行くわ』
そうして、私たち三人はカミルの家に向かって歩き出した。
時々カミルの様子を見つつ。
途中から、カミルは呻めき声すらあげられなくなっているようだった。
『あ! アルベルト君だ!』
丁度お店とカミルの家の間ぐらいで、女の子たちの集団に遭遇した。
『こんなところで偶々会えるだなんて、嬉しい。アルベルト君、何をしているの?』
あまり話したことはないけれども、何度かこの街の同世代の集まりで見かけたことはある。
その程度の付き合いだから、当然名前すら知らない。
『見ての通り、カミルを運んでいるんだ』
アルベルトは、困ったような笑みを浮かべつつ言った。
『え!? カミル、どうしたの?』
いつの間にか女の子たちに押し出された形となった私とエルマは、アルベルトの周りに集まる女の子たちを遠巻きに見ていた。
『……人気ね、貴方の婚約者』
『そうねぇ……』
『あれ? モヤモヤしたり、苛ついたりしないの?』
『彼女たちは、別に。アルベルトが心移りするようなら、話は別だけど』
『ふーん? 彼女たちはってことは、心移りしそうな人でもいるの?』
『あー……そういうことじゃないの。心移りする心配とは別に、彼に近づいて欲しくない人がいるってだけ』
空気を察してくれたのか、エルマはそれ以上私に問いかけることはなかった。
ふと、視線を他に移す。
『……ねえ、エルマ。あの怪しげな服着ている人は誰?』
その時視界に映った人が気になって、話題を変えるついでにエルマに問いかけた。
『怪しげな服って……あれは、魔法師のロープじゃない』
『……魔法師?』
『アマーリエ、貴女、魔法師を知らないの?』
『え、ええ。少なくとも、ウチの村にはいないから』
『そ、そう……。さっき、エメルハルト王が警備隊を設立したって話はしたわね?』
『ええ』
『それと同時に、エメルハルト王は魔法師という職業も創出したの。王国が認める魔法使いにのみ、魔法師として名乗れるらしくって、魔法師になると警備隊と連携して魔獣と戦ったり、王国のために魔法を発展させる研究をしたりするんですって』
『ふーん……。魔法師、ねえ』
私は視界に映る魔法師のことが、気になった。
何故か、アルベルトを睨んでいたような気がしたから。
けれども問い詰める前に、その魔法師は姿を消していたのだった。
『どうしたの、アマーリエ』
『……何でもない。さて、アルベルトたちを回収しましょうか』
私はその違和感に蓋をして、アルベルトたちの方へと向かった。




