黒薔薇姫の、過去8
パーティーの日から、三年が経った。
相変わらず、私はアルベルトと遊び歩く毎日。
たまに人間の街に行ってエルマやカミルのモデルを引き受けつつ遊び、けれども大抵はアルベルトとのんびりする日々。
その日も、アルベルトと人間の街に来ていた。
私はエルマのところに、アルベルトはカミルのところに。いわゆる、女子会・男子会だった。
『へえ……結婚を前提に告白されたんだ。それで? どうしたの?』
そんな訳で、私とエルマは恋話に花を咲かせていた。
話題は、エルマが警備隊見習いに告白された話だ。
『勿論、断ったよ』
『そっか……そうだよねえ……』
彼女と知り合って、三年とちょっとという期間。
けれども、エルマが誰に目を向けているかなんてすぐに分かった。
目は口程にものを言うとはよく言ったものだなあと関心するぐらい、彼女の目は彼だけに向けられていたから。
『あははっ……アマーリエの反応、何か新鮮。周りは“早く結婚相手を見つけないと”っていう雰囲気になっているから、今回の話を断ったことを知った人には勿体ないって言われててね。それにその人、人気だから余計そんな感じなんだよね』
私からしたら、十七歳でそんな雰囲気になることの方が驚きなのだろうけれども。
前世もそうだし、今世で自分の置かれた環境を思えば特にそう。
けれどもまあ……結婚する歳なんて、時代や環境によって変わるもの、か。
『……ねえ、エルマ。カミルに告白されたら、どうしてた?』
私が問いかけると、エルマは少し驚いた顔をして……けれども、笑った。少し、悲しげに。
『勿論、断っていたよ』
『そう、なの?』
『うん。私は不器用だから、さ。一つのことにしか、集中できないの。だから、どうしても夢と天秤にかけちゃう。けれども今更、夢を諦めるなんてできないんだよ。だから、私はたとえカミルが告白してくれたとしても、断る』
『そっか……』
あれだけカミルのことが好きだという目をしていたのに……と意外に思ったけれども、理由を聞いて納得だった。
むしろ、エルマらしいとすら。
『それに、ね。カミルも多分、そんな余裕はないよ。彼もやっぱり、夢に向かって走り続けてる。それ以外のことは、見えていない。私は彼の邪魔をしたくないし、そんな彼のことが好きになったから……ずっと走り続けて欲しいと思ってる。だから私は彼に告白しないし、もし奇跡的に彼が私を好きでいてくれたとしても……彼から告白して欲しくない』
そう言ったエルマの目に浮かぶのは、強い覚悟の光。
眩しくて、目を細めそうになった。
『……すごいなあ』
だからか、つい私は素直に自分の思いを口にする。
『どうしたの?急に』
『ずっと、思ってたよ。エルマが夢に向かって進む姿はかっこいいなって、それこそ初めて会った時から』
『そんなに褒めてくれても、何もでないよ』
『純粋に、そう思っただけですー』
『あははっ……アマーリエだけよ、理解してくれたのは』
『幸せなんて、人それぞれだと思うよ。だから、それがエルマの望みなら、私は応援する』
『ありがとう、アマーリエ。……あ、次はこれを着てくれない?』
『えー、また?』
既に今日だけで、一体何着着たことか。
若干飽きてきて、つい口を尖らせる。
『私の夢を応援してくれるんでしょ?』
『……分かったわよ。はい、貸して』
そうして私は、大人しく彼女の着せ替え人形になったのだった。




