黒薔薇姫の、過去5
『あら、アマーリエ。今日もお出かけ?』
出かけざま、お母さんに呼び止められる。
『うん、アルベルトのところ』
『まあ……それなら、ちょっと待ってて。今、パイを焼いているから、それをお土産に持っていきなさいな』
『お母さんのパイ! やった!』
大好物を前に、私は大人しく待つ。
『そういえば、ブルーノ君が警備隊の隊員になったんだって?』
警備隊の隊員とは、前世でいうところの警察みたいな組織。プラス、極たまに出る魔獣を討伐することもある。
街でも指折りの魔法使いがなれる職業とあって、中々人気だ。
『うん、そう。今度お祝い会を開きたいねって、アルベルトと計画を立てているの』
『へえ、ブルーノ君が警備隊の隊員か。それは凄いなあ』
リビングで新聞を読んでいたお父さんも、会話に参加してきた。
ほんわかした雰囲気で会話しているけれども、私が生まれた時には父親も母親も大変だった。
特に母親は伏して泣き続けたらしい。
……吸血鬼の末裔ならば、誰もが不老不死の苦しみを伝え聞いているから。
我が子にそんな苦難な道が待っていると悟り、優しい二人は私が吸血鬼として生まれたことに絶望したのだ。
だからこそ、二人はアルベルトとの婚約を殊の外喜んだ。
長い長い道のりを、孤独に歩むことがないと分かって。
そんな優しい家族が、私は大好きだった。
『さ、パイができたわ。皆によろしく伝えてね。それから、お祝い会には是非とも私とお父さんも呼んでね』
『勿論! 行ってきます!』
そうしてその日も、私はアルベルトに会いに出かけた。




