黒薔薇姫の、過去4
『……アルベルト。貴方、ずるいわ』
自分たちの街へ帰った後、ぼそり呟く。
アルベルトは、私の呟きに笑みを溢した。
『僕としては、二人の誘いに乗ろうが乗らまいがどちらでも良かったんだけどね』
『嘘つき。……貴方、二人のこと気に入ってたでしょ? じゃなきゃ、即断ってたもの』
『ハハ……そうだね。二人のことは、気に入ってたよ。だけど、さ』
そっと、アルベルトが私を引き寄せる。
『僕にとっては、アマーリエが一番。だから、アマーリエがどうしても嫌だったら、断るつもりだったよ』
彼は、息を吐くように甘い言葉を私に与える。
いい加減慣れろと自分で自分を叱咤するけど……やっぱり、無理。
自然と熱が顔に集まり、頬が緩む。
それを悟られないよう、殊更聞こえるよう息を吐いた。
『……まったく。その言葉、信じてあげる』
私はアルベルトの肩に手を添えつつ、首筋に唇を付ける。
そしてそのまま、牙を立てた。
瞬間、濃厚な血の味が、口の中いっぱいに広がる。そして、自然と体が歓喜に震える。
私たちは、吸血鬼。
純血でなくても、その性質は全て受け継いでいる。
吸血も、その一つ。
歯が生えそろった頃から血の摂取が欠かせない。
けれども、誰の血でも良いという訳ではない。
血とは命の滴であり、魂の欠片。
それ故に求めて止まないのは……魂が共鳴する相手。つまり、自分にとっての最愛。
だから、吸血鬼は婚姻と共に縛る。
互いの心が変わらないことを祈り、誓って、互いの血しか飲めないように。
それは、吸血鬼に伝わる誓約の魔法。
婚約すると共に、古の作法に則って私とアルベルトは互いにその魔法をかけた。
だから、私たちが飲める血は互いのそれだけ。
アルベルトは抵抗することなく、そのまま私に身を委ねていた。
私が唇を離すと、アルベルトは体を横たえた。
『……飲み過ぎた?』
『全然。……美味しかった?』
『ええ。串焼きよりも、ね』
『ハハ……それは良かった』
倒れ込んだ彼に抱き付くように、私もまた身体を横たえる。
『……ねえ。アルベルトは、二人のどこが気に入ったの?』
『ひたむきなところ』
『ああ……二人とも、自分の夢に向かって真っ直ぐだったわね』
『何かに夢中になれることは、それそのものが尊いと僕は思うよ。だから、自分の夢に真摯に向きあう二人は、とても素晴らしい』
『そうね。……でも、私には理解できそうにないわ』
『……アマーリエ?』
『前世では、やりたいことが沢山あったわ。でも今は、そんな熱量が全く湧いてこないの。長い人生、これから先何でもやれる。でも、何でもやれるとなると……今じゃなくて良いか、後で考えれば良いかって、そんな風に思考を停止してしまうのよね』
『それは分かるな』
アルベルトは、私の髪を一房手にとって口付ける。
『ああ、でも……一つだけ、将来の夢があるわ』
『アマーリエが? どんなの?』
『貴方のお嫁さん』
彼は体を反転すると、私を組み敷く。
『……アマーリエこそ、ずるいよ』
そう言って、彼もまた私の首筋に牙を立てた。
『……美味しかった?』
『勿論。……串焼きよりも、ね』
彼の言葉に、私は笑った。




