黒薔薇姫の、過去3
その後理性を取り戻したカミルが私とアルベルトにお礼をしたいとのことで、私とアルベルトはエルマとカミルの四人で夜ご飯を食べに行った。
勿論、最初は遠慮したんだけど……カミルの熱に負けて。
それに、アルベルト以外の同世代の人たちと遊んだことがなかった私には、その誘惑に勝てなかった。
『カミルは、どうして理髪店を持つのが夢なの?』
『人って、まずは見た目から入るだろう? どんなに中身が紳士だろうが博識だろうが、見た目が胡散臭くちゃ、話にならねえ。……初見で相手のどこを見るかって言うと顔。で、頭は相手の顔を見るときに嫌でも目に入るだろう?』
『まあ、そうね……』
『だから、俺はその髪を整える奴になりたいんだよ。顔って、弄るのに限界があるだろう? けど、髪の可能性は無限大だ。俺は、新たな流行を俺の手で生み出したい』
自分と同世代だと言うのに、しっかりと目標を持つカミルのことを尊敬した。
カミルといいエルマといい……なんとまあ、しっかりしていることか。
『どうせなるなら、国一番の理髪店を持ちたい。……で、その成功の鍵は、どうやって貴族に気に入られるかだ』
『どうして、貴族なの?』
『そりゃ、かける金が違うから。あいつらは自分を飾り付けることに金の糸目をつけない。こっちとしても、色んな髪型に挑戦できるってもんだ』
『あー……なるほど』
『けどそうすると、新たな流行を作って評判を作ることが大事なんだよな。腕を磨いて地道にコツコツと評判を得ることも、勿論大事だけどさ。そんな訳で、さっきは二人に絡んじまった。二人を見ていると、どんどん創作意欲が湧いてな。悪かった』
カミルはそう言いつつ、軽くその場で頭を下げる。
『そんなに気にしなくて良いよ。別に危害を加えられた訳じゃないし。むしろ僕としては、こうして美味しいお店を紹介して貰えて、良かったかな』
そんなカミルに、アルベルトがフォローの言葉を伝えていた。
『まあ……私もカミルの気持ち、分からなくもないけどね。恩人だってことがなかったら、真っ先に飛びついていた自信があるもの』
『エルマもそう思うよな。……そう言えば、二人とも珍しい髪と目の色だけど兄妹かなんかか?』
『ええっと……』
『彼女は、僕の許婚』
サラリと、アルベルトが答える。
その答えに、一人顔が熱くなった心地がした。
『許婚ぇ!? え、二人とも……もしかして貴族か?』
『まさか。僕たちは、田舎の村の出でね。このぐらいの年で将来を誓い合うのも当たり前なんだよ』
よくもまあ、ペラペラと嘘が出てくるものだと呆れるというか……感心するというか。
私たちの婚約は、街でも異例の早さだった。
何せ、私たちが婚約したのは十代前半。
早くて二十代で結婚する人もいるけど……大体四十代から五十代ぐらいだ。
『へ、へえ……そんなもんなのか』
あまりにもあっさりと答えたからか、二人はまるっとアルベルトの言葉を信じたようだ。
真偽を確かめる術がない、ということもあるだろうけど。
『じゃあさ、二人はこの街にどうして来たの?』
『うーん、特に理由はないんだよね。強いて言うのなら、アマーリエが色んなところを見て周りたいって言ったからかな。僕としても、村に閉じ篭っていることに飽きてきたし』
『あー、なるほど』
『じゃあさ、今度二人とも私のモデルになってよ』
『ずりぃぞ、エルマ。俺も、俺も!』
エルマとカミルは、二人揃って目を輝かせていた。
『だってさ。どうする? アマーリエ』
……こんな状況で、話を振らないで。
内心そう思いつつ、ため息を吐く。
『ええっと、二人が街を案内してくれるなら』
期待に満ちた目に断ることもできず、私は承諾した。
……そうして、私たちはその後も深く長く付き合うようになっていったのだった。




