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黒薔薇姫は、怠けたい  作者: 澪亜
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黒薔薇姫の、過去2

『……えっと、どうしよう……』


『とりあえず、ざっと診たけど体に異常はないみたいだね。本人の申告通り、食事をあげるのが一番かな』


そんなアルベルトの助言を受けて、私は手近な店から幾つか消化の良さそうなものを買った。

幸い市場には出店のようなところだけではなく、簡単に食べられるスペースもあったから、そこに彼女を運び込んだ。


彼女は食事の香りに目を開くと、驚くようなスピードで食べ始めた。


『えっと……そんなに急がなくても、全部貴女の分だから。というか、あまり急いで食べると、それはそれで体に良くないと思うのだけど……』


控えめな助言は彼女に届かず、そのままの勢いで彼女は食べ続けた。

そうして全て食べ終わる頃には、彼女の顔色はすっかり良くなっていた。


『ご迷惑をかけちゃって、ごめんなさい。私の名前は、エルマ。ちょっと、ここ一、二日寝食忘れてたから、力尽きちゃったみたい。食事の代金、いくらだった?』


『私の名前は、アマーリエ。体調が良くなったなら、良かった。彼は、アルベルト。困ったときはお互い様だし、食費のことは気にしないで』


『そんなに甘えられないよ。助けて貰った上に奢って貰うなんて、ね』


じゃあ……と私は、エルマから代金を受け取る。


『本当に、有難うね。アマーリエ、アルベルト。……そうだ! 時間、ある? お礼がしたいの』


『いやー……殆ど何もしてないんで』


『そんなこと言わずに、ね? ついて来て』


取り敢えず、私たちはエルマの後を付いて行く。

彼女の目的地は、市場から遠くない場所にあった洋服の店だった。


『私、ここの店で針子として働いているの。いつかは、こんな風に自分の洋服店を開くのが夢』


洋服店の中には、キラキラと美しいドレスや小物が所狭しと置いてあった。

私たちは裏口らしきところから店の中に入る。

そこには、これまた所狭しと机の上に布やら刺繍糸が散乱している。


『新しいドレスを作るのに夢中になってたら、いつの間にか二日経っちゃってたのよね。完成した途端、お腹が空いてることを自覚して、それで市場に向かったの』


『よく、市場まで辿り着けたね』


『まあ、しょっちゅうだからね。とは言え、流石に倒れたのは、初めてかも』


『……程々にね』


『うん、まあそうするよ。……さ、これがお礼。好きなものを選んで』


そう言って差し出されたのは、美しい刺繍の入ったハンカチだった。


『え、これ良いの? 売り物じゃ……』


『大丈夫、大丈夫。図案を考えるときに作った、ようは習作だから。勿体無いから、ハンカチーフにしただけ』


『ええっと、じゃあコレ』


私は紫色の美しい花が縫われていたハンカチを受け取る。


『なんだか、こっちの方こそがお礼しないとダメね』


『お礼のお礼? 面白い発想ね。でも、いいよ、いいよ。そんなに気を使って貰っちゃうと、こっちの方が恐縮しちゃう』


『そう?』


丁度その時、玄関の方からベルが鳴った。


『あれ、誰だろう……。ちょっと待ってて』


彼女が扉を開けると、そこには私たちと同世代ぐらいの男の子が立っていた。


『あ、エルマ。良かった、生きてて。どうせまた、ドレスに夢中になってるんだろうなって様子を見に来たけど、随分と元気そうじゃん』


『あー……ありがとう、カミル。実は、倒れてあの二人に助けて貰ったんだ……』


『はあ? ったく、いつも言ってるだろ。食べることと寝ることは忘れるなっ……て……』


カミルは私たちに目を向けると、何故だか目を大きく見開いて固まった。


『やば……ありえない程、美形じゃん! なあなあ、俺に髪を弄らせてくれないか!?』


興奮したように頬を赤らめさせ、カミルは私とアルベルトに近づいて来た。


『はいはい、ストップ! 言ったでしょう、二人は私の恩人だって。そんな不躾に近づかないでくれる?』


『いやいや、何でそんな普通でいられるんだよ。二人見てたら、創作意欲がヤバイほど湧かねえか?』


『それは完全に同意だけど、今のあんた、完全に不審者だから。……ごめんね、二人とも。彼は、カミル。私の幼なじみで理髪店を開くのが夢なんだ。だからこう……なんて言うか、美しいものに目がないと言うか……』


『見える! 見えるぞ! 新しい流行が!』


一人叫びながら私とアルベルトを凝視するカミルは、残念ながらエルマの言う通り完全に不審者のようだった。


『だーかーら、カミル! ストップ!』


そんなカミルを、エルマは殴って止める。

結構いい音がして、若干カミルが心配になった。


『はっ! 悪い、悪い。つい、熱が入っちまった。……えっと、俺はカミル。二人は……』


けれども彼女の打撃は功を奏したのか、カミルの瞳に理性が戻っていた。


『私の名前は、アマーリエ』


『僕は、アルベルト』


『そうか。アマーリエと、アルベルト。エルマを助けてくれて、ありがとう』


『いえいえ』


『……で、二人とも。俺に、髪を弄らせてくれないか?』


『カーミールっ!』


再び、エルマの雷が盛大に落ちた。



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