黒薔薇姫の、過去
意外にも、外の世界の方が自由に羽を伸ばせた。
……どうやら、吸血鬼の末裔以外に吸血鬼の特徴は伝わっていなかったらしい。
お陰で、黒色の髪と真紅の瞳を隠すことなく堂々と街中を歩けたのだ。
『あら……アルベルト。あの串焼き、美味しそうじゃない?』
ぶらり、二人で街を歩くのは最早日課だった。
その日も、私はアルベルトと隣街の市場を歩いていた。
『そうだね。すいません、二本下さい』
アルベルトが差し出してくれた串焼きを遠慮なく、食べる。
『うん、やっぱり美味しい!』
『味付けが独特だね。……この香辛料、何を使っているんだろう?』
『お、君。お目が高いね。これは、南方で取れる特殊なスパイスを使った秘伝のタレが味の決め手だよ』
『へえ……ちょっとそのスパイス、見せて貰えますか?』
私が食べることに夢中になっていた間に、興味がスパイスに移ったらしいアルベルトは、店員とスパイス談義に話を咲かせていた。
……こうなると、長い。
長い付き合いの中ですぐに悟った私は、その場からあまり動かないようにしつつも他の店に目を向ける。
『お待たせ、アマーリエ』
『ううん、全然。収穫はあった?』
『スパイスの効能を研究するのは、面白そうかな。物によって効能は全然違うようだし、それぞれ味も楽しめる』
『ふーん……こっちの世界にも、色々スパイスがあるんだねえ』
『前の世界にも、あった?』
『勿論。この世界と同じかどうかは、分からないけど。美容とか健康に良い、って言われてたわね』
そんな会話をしつつ、私たちは市場を冷やかしていた。
『今日はブルーノ義兄さんに、どんなお土産を買って行こうかな』
『……無難なものが一番だと思うよ』
そう言ったアルベルトは、何故か遠い目をしている。
『ダメダメ。折角買っていくなら、しっかり吟味しなきゃ。何か珍しいモノとか、面白いモノないかなー』
『うん、そうだね。……でも、できれば使えるものとかの方が良いんじゃないかな? ほら、置物とかって増えると置き場所困るでしょ?』
『うーん、それは確かに』
あれやこれやとブルーノへのお土産を買うべく見回ったけれども、しっくりとくるものが見つけられなかった。
いつの間にか市場の端まで来てしまっていた。
『うーん、悩むなあ』
そんな時、すぐ隣を歩いていた女性がフラリと倒れた。
『え? あの、大丈夫ですか……!』
私は慌てて、彼女に駆け寄る。
そして彼女を抱き上げ、声をかけた。
『……ご、ごはん……』
震える声色で呟かれた言葉に、思わず私とアルベルトは揃って目が点になった。




