執行官は、問いかけた
「……ディアナ。先ほどは、取り乱してしまってごめんなさいね」
そう言いながら、アマーリエ様は私の対面の席に座った。
アマーリエ様と共に部屋に戻って来たカイさんとヴォルターさんそれからラインハルトさんも、先ほどと同じ席に座る。
「私の方こそ、失礼致しました」
「良いのよ」
「寛大なお心、ありがとうございます。……ですが、一つ質問を宜しいでしょうか?」
私の問いに、左右に座る皆が剣呑な目を向けた。
私が不用意な発言をしないか、気が気ではないのだろう。
私自身、先程のことがあったにも関わらず、よくぞ質問をしようと思ったものだ……と、我ながら驚いていた。
「アマーリエ様、貴女様は一体『何』ですか?」
ずっと、違和感を感じていた。
まるで、賢王を直接知るような口ぶり。
直接その戦いを見ていたような、発言。
極め付けは、『三百年待った』というアマーリエ様の言葉と、ディアナとの会話。
それら全てから導き出される想像は、あまりにも荒唐無稽。
けれども、先ほどのアマーリエ様の怒りを見るに、とても『有り得ない』と切り捨てられない。
……アマーリエ様が、三百年前から生きているのではないかという想像は。
「……何、か。そうねえ……陽の光を浴びたら、灰になってしまう。ニンニクと銀に弱く、心臓に杭を打たれれば死ぬ。人の生き血を吸い、長寿を誇る種族。皆のイメージって、そんなところかしら」
「……ニンニクとは、何でしょうか? あと、銀に弱いことは初めて聞きましたよ」
苦笑いを浮かべつつ問いかけたヴォルターさんに、アマーリエ様も笑う。
「あら、あの野菜……ニンニクという名前じゃないのかしら? まあ、それはどうでも良いか。……そんなことよりも、ディアナ。貴女はそんな空想上の生物の名を、知っているかしら?」
まさか……だとか、ありえない……という言葉が、頭の中を駆け巡る。
だって、あれは空想上の生物なのだから。
「……吸血鬼」
けれども不思議と、するりと口から言葉が溢れた。
「正解。私はその吸血鬼属の生き残り」
未だにアマーリエ様が吸血鬼だということに頭の中が混乱がしていたけれども、妙に納得している自分もいた。
「ああ……けれども、さっきの例えは物語だけのものなのよ? 陽に当たっても、私は灰にならないし……銀に弱いこともないし、心臓に杭を打たれても……多分、すぐには死ねない。ああ……でも、不老長寿なことと生き血を吸うことは、当たっているわね」
「アマーリエ様は吸血鬼だからこそ……三百年前の争いも、ご自身の目で見た。そういうことですか?」
「やけに素直じゃねえか。信じられない……だとか、証拠は? とか、聞くと思ったのに」
カイさんの言葉に、私は苦笑いを浮かべつつ口を開く。
「……想定していましたから。流石にアマーリエ様が吸血鬼ということには驚きですが……むしろ自分の中で辻褄が合いましたので納得しています。それに……黄昏の森でアマーリエ様が使っていたブラッディ・レイン。あれは、吸血鬼にしか使えない魔法なのではないですか?」
普通、魔法は火・水・土・風の四大元素あるいはその派生魔法しか存在しない。
けれども、あれはそのどれにも該当しなかった。
「ええ、そうよ。吸血鬼にしか使えない属性が、二つあるみたい。その内の一つが、血属性。あのブラッディ・レインも血属性の魔法ね。よく、覚えていたわね」
「……それだけ、印象的でしたから」
「そう。……さて、質問は以上で良いかしら? もし良ければ、昔話をしましょうか」
……きっと、三百年前の話だろう。
私はそっと、アマーリエ様の提案に頷いた。




