黒薔薇姫は罪悪感を抱く
「……ディアナには、悪いことをしちゃったわね」
窓の外の景色を眺めつつ、私は呟く。
感情の抑えが効かず、怒りをそのまま彼女にぶつかけてしまった。
結果、彼女は恐怖のあまり失神。
……本当に、申し訳ない。
いたたまれなさ過ぎて、ベティーナを残して皆と共に一旦退出した。
「アマーリエさまが気にされることないですよ」
カイの慰めに、小さくありがとうと呟きつつも、心の中は未だ晴れることはない。
「……でも、彼女は私の事情を知らないわ。なのに、あんなに怖がらせてしまうなんて……ダメね」
モヤモヤとした思いを吐き出すように溜息を吐きつつ、私は手近な椅子に座った。
「……ジークフリードに伝えて、薬を持ってきて」
「了解です」
すぐさま、カイがグラスを持ってくる。
中には、紅の液体が並々に注がれていた。
クイっと、それを一気に飲み干す。
……相変わらず、不味い。
「……カイ。あの時、止めてくれてありがとう。怒りを鎮められたのは貴方たちのおかげ。でも、怖がらせてしまってごめんなさい。皆も、ごめんなさいね」
正直……カイに止められなければ、どうなっていたか分からない。
もしかしたら、未だに怒りを鎮められずに屋敷の外にまで被害が及んでいたかもしれない。
「アマーリエさまが謝る必要はないですよ。貴女は、何一つ悪くない」
カイの言葉に、思わず苦笑が浮かぶ。
「……カイ。貴方、私に甘すぎるわよ」
「そんなことないですよ。俺は、普通です」
「いいえ、絶対に甘いわ。……というより、普通の基準がおかしいのかしら? この領地の人たち皆、私を甘やかし過ぎよね」
「そりゃ、そうですよ」
何を当たり前のことを、と言わんばかりのカイの反応に私は思わず顔を顰める。
「ディアナの言葉を聞いて、冷静に考えて思ったの。貴方たちは、私を恨むべきだと。魔王の封印を強化する術は、現時点でない……それは、本当。けれども私は三百年間、その術を探そうともせず、その可能性を握り締め続けた。そのツケを、貴方たちも支払わせられるのよ?」
「私たちは、貴女様が封印のために支払った犠牲を知ってます。故に、封印が解けたその時は……今度こそ、貴女様の役に立てるように研鑽してきました」
「ヴォルターの言う通りだよ。僕たちアルトドルファーに住む人は、生まれたその時からアマーリエさまへの恩を聞いて育つ。僕たちが生まれることができたのも、今生きていられるのも、全部アマーリエさまのお陰だって。だから、僕たちはその恩義に報いたいだけ。そうでしょ? カイ」
「お前の言う通りだよ、ラインハルト」
カイの肯定に、私は思わず溜息を吐く。
「甘やかしている? そんなことないですよ。アマーリエさまが魔王を封印したことも、結果俺たちのご先祖さまが助かったのも事実ですし。それにいつか封印が解けたその時のために、民を鍛え上げたんでしょう? ……約束を忘れてた、どっかの王族と違って」
「皆、買いかぶり過ぎよ。……でも、ありがとう」
皆の優しさに、胸が痛くなる。
詰ってくれて良い……むしろ、詰ってくれた方が楽だとすら思っていた。否……今でも、そう思っている。
私の願いは、魔王の封印を解いた先にある。
……封印を解けば、一体どれだけの犠牲が出るのだろうか。
封印を解いたその時、皆が生き残れるようにとできるだけのことはしたつもりだけど……それでも、絶対ではない。
絶対ではない以上、本当は魔王の封印を継続させる術を探すべきだったということは、分かっていた。
それでも私は、これ以上の時を待つことなんて考えられなかった。
魔王の封印を解く……その時を待ちわびて、待ちわびて、そうして三百年の時を生きてきたのだから。
「……そろそろ、ディアナも目覚めた頃かしら」
無理矢理思考を中断して、問いかける。
「ええ。もう既にアイツは目覚めてますよ」
「そう。……なら、戻りましょう」
そうして私は皆を引き連れて、ディアナのいる部屋に戻って行った。
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