執行官は挨拶をする
「ゾフィー。執行官が来たぞ」
無造作に入った部屋は、一般的な応接室だった。
部屋にいたのは、キッチリと髪を結い眼鏡をかけた女性。
可愛いというよりも美人な顔立ちの彼女は、侍女の制服も髪型同様全く崩すことなくキッチリと着こなしていて、見た目からして、しっかりとしていそうな印象の人だった。
……カイさんとは大違いだ。
「はじめまして。ディアナ・バルテと申します。この度、王都より派遣されました執行官です。今後、よろしくお願い致します」
「ご丁寧にありがとうございます。ゾフィーと申します」
……本当に、カイさんとは大違いだ。
やっとまともな人と会話ができて、思わず胸が熱くなっていた……というのに。
「ですが、ディアナさん。当家は執行官の受け入れを、拒否した筈ですが?」
ニコリとも笑わず真顔で言われた言葉に、固まる。
……拒否した? そんなの、聞いていない。
そもそも王命を拒否するなんて、ありえない。
カイさんとは違うが、この人も常識の通じない人なのかと心の中でそっと涙を流す。
「……僭越ながら、ゾフィーさん。執行官の派遣は王命ですので」
ニコリと外行きの笑みを浮かべつつ、言外に受け入れの拒否はできないという事実を突きつけた。
「何も知らない、ですか。……恐れ入りますが、貴女では話になりません。当主より手紙を書きますので、それをお持ち帰りになり、王なり宰相なりにお見せください」
譲歩した上で穏便に済ませようとしたと言うのに、何故か私の方が溜息を吐かれた。
……納得がいかない。
「ええ。確かにゾフィーさんの仰る通り、アルトドルファー伯爵が執行官の受け入れを拒絶したなど、はじめて知りました。ですが、ゾフィーさん? 先ほども申しました通り、執行官の受け入れは王命です。これに従わない場合、反逆罪と取られても文句は言えませんよ?」
最後通牒のつもりで言ったというのに、ゾフィーさんは最早興味を失くしたと言わんばかりに冷めた視線を向けてくるばかりだった。
「ゾフィー。どうする? こいつ、追い出すかあ?」
カイの問いかけに、ゾフィーは一瞬考える素振りを見せる。
「そうねえ。……面倒だし、その方が良いわね」
「おっし!」
カイの手が伸びてきたと同時に、チリーンと可愛らしい鈴の音が響いた。
「あら、もうお目覚めになったのだわ。……カイ、ディアナさんを見張っていて。せっかく目覚められたのだから、ディアナさんに持たせる手紙を書いていただいてくるわ」
「りょーかい」
「あ! ちょっと!」
帰るつもりなんてサラサラない。
だから、手紙なんて貰っても困る。
そう思って、ゾフィーさんを止めるよう彼女の腕を掴もうとした。
「え……」
けれども、私の手を止めるように、カイさんが私の腕を掴んでいた。
……一体、いつの間に。
カイさんは私とゾフィーさんから離れたところにいた筈。
それなのに、いつの間にか私の手の届くところにいる。
ありえない……速すぎる。
「一体、何のつもりですか?」
ゾフィーさんの言葉に、無意識に体がピクリと反応した。
……何、このプレッシャー。
得体の知れない怖さに、自然と体が強張った。
「おいおい、良いのかよ。さっさと上に行かなくて」
カイさんは、あっけからんと笑いながら聞く。
よくもこのプレッシャーの中で、そんな軽口を聞けるものだ……と、頭の隅で感心していた。
「……ああ、そうですね」
そうゾフィーさんが答えると同時に、スッとプレッシャーが引いた気がする。
「あら……ここにいたの、ゾフィー」
そのタイミングで、扉から新たな声が聞こえた。




