執行官は、意識を失う
「面白いことを考えるわね? 封印を、強化する……それってつまり、封印をこのまま維持するということよね」
アマーリエ様は、微笑んでいた。
微笑んでいるのに……凍えるような冷たさがあった。
まるで、刃物を突き立てられているような感覚。
「私は、三百年待った。約束を守り、三百年の時を耐え続けた。貴女は……この国は、私に更なる時を待ち続けろと言うの!?」
更に、空気の冷たさが増した気がする。
「アマーリエさま! お気持ちは、分かりますが……落ち着いて下さい。このままでは、シャリアンデに住む民も倒れてしまいます」
カイさんが、叫んだ。
……人は、死の間際にこれまでの自分の生を追体験すると言う。
それは、本当だった。
恐怖すら感じる間もなく、私はただ走馬灯を見ていたのだ。
冷気が溶けていく。そしてそれと同時に、開放されて安堵をする間もなく、意識が遠のいていったのだった。
気がついたら、ソファーで寝ていた。
私は、慌てて体を起こす。
「……気がついたかい?」
声をかけてきたのは、ベティーナだった。
「全く……久しぶりに肝が冷えたよ。まさかああも、アマーリエ様の逆鱗に触れるとは……ね。私も一瞬、走馬灯が見えたな」
そう言ってベティーナは笑った。けれどもその表情には、隠しきれない疲労の色が滲んでいる。
「まあ、仕方ないか。君は、アマーリエ様のことを何も知らなかったのだから。だから、ああなったのは君の責任じゃない。アマーリエ様もそれが分かっているから、頭を冷やしてくると席を外している」
「私は、何か失礼なことを……?」
「言ったねえ。アルトドルファー伯爵領の献身を忘れていた。それそのものに、君に非がある訳ではないことは分かっている。けれどもそのことを棚に上げ、更なる助けを求めるなんて……助けを求められる側からしたら、堪ったものじゃない。そんなこと、分かるよね?」
「それは、そうですけれども……」
「まあ……職務上、君がそうせざるを得なかったことは、誰もが理性では分かっていた。けれども、感情は別だ。だからこそ、アマーリエ様の側に控えていた皆は君に敵意を向けていたんだ。勿論、この私も含めて……ね」
ベティーナは、そう言って笑った。
「けれども、アマーリエ様は違う。君が助けを求めることは、仕方ないことだと完全に割り切っていた。……いいや、『割り切っていた』だと、少し表現が違うかな? 所詮、人はそんなものだと『諦めていた』というのが正しいか」
「ならば、アマーリエ様は何故……」
「それはね。君が、アマーリエ様の願いを踏み躙るようなことを言ったからだよ」
「私が、アマーリエ様の願いを踏み躙る……?」
「封印を維持させる。それが、アマーリエ様にとっての禁句」
「封印を維持させることが、アマーリエ様の願いを踏み躙るということ? それなら、アマーリエ様の願いは……!」
……魔王の、封印を解くこと。
その言葉を出す前に、アマーリエ様が部屋に戻って来た。




