執行官は、抗った
「……お願いします……っ。どうか、どうが、お力添え下さい。約束を忘れていた非は、王国にあるのかもしれません。けれども、このまま見過ごせば犠牲になるのは民なのです。どうか……アマーリエ様のお力添えを」
「……非がある、か。その一言で三百年の献身を帳消しにして助けて貰おうなんざ……虫唾が走る」
そう言ったカイさんの声は、酷く冷い。
「……カイ、ありがとう」
アマーリエ様は、カイさんに向かって御礼を言った。
それで、やっと私は思い至る。
……王国が三百年近く平穏を保っていたのは、正にアルトドルファー伯爵家の献身によるものなのだと。
あのような強大な魔獣たちを、アルトドルファー伯爵領の領主が……民が、最前線で討伐し続けたからこそ、なのだ。
その過程で、多くの民の犠牲があったのかもしれない。
それなのに、王国はアルトドルファー伯爵の献身から目を逸らし続けていた。
……挙句、約束すら忘れ……アルトドルファー伯爵家を他の領主と同様に危険視し、監視の為に執行官を派遣する始末。
今、やっと分かった。
アルトドルファー伯爵領で、執行官の役職に就く私があそこまで拒絶された理由が。
「ディアナ。貴女の言葉は、エメルハルトと同じね。貴女のような人が王国の中枢に立ち続けていたら……少しは違っていたのかもしれないわね」
アマーリエ様はそう言って、悲しげに微笑んだ。
「……けれども、残念。もう、時間切れね。民を守る為……民自身が自分の身を守れるような国を作ってみせる。そう言って、エメルハルトは三百年の時間を得た。けれどもその結果、何も変わらなかった。次、時間を与えたとしても……何も変わらないでしょう」
けれどもここで罪悪感に引き摺られてしまえば、本当に終わってしまう。
だからこそ、私は引く訳にはいかなかった。
「いいえ……いいえ! 確かに、王国は三百年近くの時間を無駄にしてしまったかもしれません。けれども、先のことは分からないじゃないですか。幸いにも、まだ封印は解かれていない。まだ、間に合うのです。今ここでその危険性さえ伝われば、残された時間で人は抗う術をきっと見出すでしょう」
「……残された僅かな時間で、戦えるようになると言うの? そんな夢物語、付き合い切れないわ」
「仰る通りです。ですが、まだ手はある筈です。……例えば魔塔と協力し、封印を強化する術を編み出すとか……」
その瞬間、空気が凍った。




