黒薔薇姫は、見せる
魔獣を倒し続け、私たちは森の奥へ奥へと進んで行く。
途中、ピタリとディアナの足が止まった。
そうと分かるほど彼女の体は震え、額からは汗が伝っている。
「……ここまでのようね」
そう呟いた瞬間、カイがディアナの襟首を掴んで強制的に十歩程後ろに引かせた。
相変わらずのカイのディアナへの扱いに一言注意しようと思ったけれども、ディアナの様子を見て止めた。
……思っていた以上に、ディアナは堪えていたらしい。
彼女は数度呼吸し、その目には涙が溜まっていた。
「……アマーリエ様。あの気配は一体……」
彼女は、絞り出すように問いかける。
「……ディアナ。貴女、魔王の話は、知っていて?」
「え、ええ……それは、勿論」
流石に魔王の話は、王都でも伝わっているのか。
彼女の返答にそんな感想を抱きつつ、私は再び口を開く。
「そこからじゃ見えないだろうけど、この先に行くと大きな岩があるの。本当に、大きな大きな岩」
脈絡のない話に彼女は困惑した表情を浮かべていた。
それがおかしくって、つい笑ってしまう。
「その岩はね、重石なの。魔王を、封印する為の石。でも封印は完全じゃなくて、魔王の気配……私たちは瘴気と呼んでいるけれども……が、漏れ出ているみたいなの。魔獣にとって瘴気が漂うこの森は絶好の住処みたいでね。それで、森の奥に行けば行くほど……封印石に近づき瘴気が濃くなれば濃くなるほど、強い魔獣が現れるという訳」
「……そんな話、王都で聞いたことがありません……っ!」
「あら……そうなの?」
彼女は驚いたように目を丸くしていた。……その反応を見るに、嘘を言っているようには思えない。
……これは、約束が受け継がれていない可能性が濃厚か。つい、溜息を吐く。
「でも、その話は事実よ。もし貴女が嘘か真かを確認したいなら……もう少し奥に行って、今すぐにでも封印石を壊してみる?」
私の問いかけに、彼女は大きく首を横に振った。
「そう……残念ね」
今度こそ、深く溜息を吐いた。
「……カイ。ディアナを連れて先に帰りなさい。ラインハルト、折角だしもう少し先に行ってみる?」
「良いんですか!?」
「ええ、勿論。貴方なら、もう問題ないわ。……ヴォルターは、どうする?」
「差し支えがなければ、お供させて下さい」
「ええ、良いわよ。……それじゃあ、カイ。ディアナを宜しくね」
「了解」
カイは小さく呟き肯くと、彼女を持ち上げて肩に担いで去っていった。
……だから、彼女の運び方……。
注意するにも、既に簡単には声が届かないところまで行ってしまった。
「まあ……カイが運んだ分、早くこの場を去れたと考えれば、彼女にとっては良かったのかしら?」
思わず疑問を口にしたけれども、二人とも固く口を閉ざしたままだ。
「さて、行きましょうか」
気合を入れ直し、私は二人と共に更に奥へと進んで行った。




