黒薔薇姫は、疑問に思う
「あら、ベティーナ」
身支度と食事を終えて屋敷内を歩いていると、ベティーナに会った。
「おはようございます、アマーリエ様。調子はどうですか?」
「ふふふ、大丈夫よ。ありがとう。……ねえ、ベティーナ。貴女、今から時間ある? お茶に付き合ってくれない?」
「勿論、喜んで」
それから、私はベティーナと共にラウンジに入った。
「そう言えば、今日でしたね。黄昏の森に行くの。ラインハルト君とヴォルター君が朝から気合を入れてましたよ」
「あら、そうだったの? ふふふ、それは私も楽しみだわ。……ベティーナも、行く?」
「私は遠慮しておきます。……ディアナは連れて行くんですか?」
「まだ、誘ってないけど……ディアナが行きたいのであれば、連れて行くわ。そう言えば、もうディアナには会ったの?」
「はい。可愛らしい子ですよねー」
「そうね。……貴女が会ったのであれば、丁度良かった。彼女、『魔力制御』をしていると思う?」
魔法の源は、大気中に漂う魔素。
人は、息をするのと同じようにその魔素を自然と体内に取り込んでいる。
そして体内に取り込まれた魔素は、体内にある魔源という臓器に蓄積され、魔力に変換。
魔源で受け止められる魔素の量は人によって異なり、魔源の許容量イコールその人の魔力量と定義付けられていた。
魔力制御は、魔源に蓄積された魔力を意図的に隠す行為だ。
つまり魔力制御を行っている限り、よく物語にある『この魔力の気配……大物か』だとか『魔力量が多い……天才だ!』とはならない訳だ。
ちなみに、領民の半数ぐらいは魔力制御を行なっている。
自分の力量を敢えて晒す必要はないし、日常生活では多すぎる魔力量は相手に威圧感を与えてしまうだけだからだ。
「私の目で見ても、彼女が魔力制御を行っているかは分かりませんでした。私の目を誤魔化すほどの力量の持ち主なのかもしれませんが」
ベティーナの目は特別で、相手が魔力制御をしているかどうかの判別ができる。
本人曰く、不自然な程魔源の動きがないとのことだけど……私にも、よく分からない。
「そう……貴女でも、分からないのね……」
「……何故、ディアナの魔力量が気になったのですか?」
「正確には彼女の魔力量が気になったのではなくて、王都が三百年近く前の『約束』を覚えているのかが、気になったのよね。彼女が領外の人の一般的なレベルだとしたら、この国は約束の時に耐えられるのかしら? って。まあ、約束を忘れたこの国がどうなろうとも、どうでも良いのだけどね」
「あー……なるほど。ディアナに確認する必要はあると思いますが、私は伝わってないと思います。現に彼女は、アルトドルファー伯爵領の成り立ちすら知らないようでしたし」
「あら……そうなの? それは面倒ね」
思わず、溜息を吐く。
「まあ……それでも私は、私の願いを貫き通すだけだわ。……たとえその過程で、誰がどうなろうとも」
「それで良いと思います。私たちアルトドルファー伯爵領の民は、全てを知った上で……いいえ、知っているからこそ、アマーリエ様に付き従っているのですから」
「……本当に、皆には感謝の言葉しかないわ」
丁度そのタイミングで、ノック音とともにヴォルターが部屋に入って来た。
「あ、ヴォルター君。お疲れー」
「ベティーナもいたのか。……アマーリエ様。昨日話していた、新たな魔法式です」
「あら、ありがとう」
ヴォルターから渡された書類に、ざっと目を通す。
内容がコンパクトに纏まっていて、読み終わるのにそう時間はかからなかった。
「風と火の複合魔法……発動させれば、辺り一帯が爆発する。そんなイメージの魔法ね?」
「はい、仰る通りです」
「式を見るに……威力は十分、攻撃範囲も広いわね。後は森で実際使ってみて、改良の余地があるか確認するわ」
「よろしくお願いします」
会話が途切れたところで、再びノック音が響く。
「アマーリエ様、戻りました」
入って来たのは、カイとディアナだった。
「おかえり。カイ、ディアナ。……ああ、ディアナ。彼は、ヴォルター。魔法の研究者なの。ヴォルター。彼女が執行官のディアナよ」
「……ディアナ・バルテンと申します。どうぞ宜しくお願い致します」
「ねえ、ディアナ。これから黄昏の森に行く予定なのだけど、貴女も来る?」
「是非とも、お願いします」
「そう、分かったわ。……カイ、貴方も来てね」
「ええ、そのつもりですよ」
「アマーリエ様! そろそろお時間ですが、宜しいでしょうか?」
タイミング良く、ラインハルトが部屋に入って来た。
皆、部屋の中の会話が聞こえているのかしら? と疑問に思うぐらい、絶妙なタイミングで入って来る。
「ええ、ラインハルト。丁度良かったわ。一緒に行きましょう。ディアナ、彼はラインハルト。外隊の隊長を務めているのよ。ラインハルト。彼女は執行官のディアナ」
ディアナはヴォルターの時と同様にラインハルトに挨拶をしていたけれども、彼は失礼にならない程度に形式的に返答すると、さっさと外に出てしまった。
……余程、森に行くのが楽しみらしい。
あまり待たせる訳にはいかないか……と、私もまた、すぐに外に出た。




