執行官は、観光をする 3
「さて、ここからは続けていきます。生産は、領内の農作物の出来高を取り纏め、管理する部署。財務は、領地の財政や税務を担う部署です。法務は領法を司る部署。経労は領地の経済活性化に関する施策や労働環境を司る部署。それから、防衛は領地の防衛全般を司る部署ですね」
階段を登りながら体力だけでなく精神までガリガリと削られていくような気がした。
……今日の案内が終わるまで、私の意識は保つのだろうか。
体力ではなく、私の心の問題で。
「……最後は、企画です。それぞれの部署と連携し、全体を見通しながら如何に方策を実行に移すかを考える部署ですね。私はここの部長も勤めておりますので、基本、この階におります。何かあれば連絡をください」
「あのー……」
「はい、どうされましたか?」
「……ここを案内いただいたおかげで、領政は領主が主体ではなく領政会と領官で行っていると理解しました。その上で質問なのですが……私は一体、誰を補佐すれば宜しいのでしょうか?」
「補佐、ですか……」
「執行官の職務の一つは、領政の補佐なのですが……」
「お前の仕事って、アマーリエさまの監視じゃなかったのか?」
カイさんにズバリと言われた言葉が、胸に刺さる。
言われていることが、正しいだけに。
「……カイさん。その答えは、必要ですか? ディアナさんが困ってますよ」
困っていたところを、クリスティンさんが助け舟を出してくれた。
……でも、何でだろう。
笑っているのに、言葉にできない圧を感じる。
「いや……まあ、必要か必要じゃないかって言ったら必要じゃねえけどよ……」
同じような圧を感じたらしいカイさんは、若干たじろんでいた。
「お気を悪くされたら、申し訳ありません。そうですね……でしたら、私の秘書として働かれるのはいかがでしょうか」
「おい、良いのかよ?」
「ええ。アマーリエ様も仰っていたのでしょう? 別に隠すことはない、と。……昼間は領主様もお休みになられているので、こちらで働かれた方が、ディアナさんも手持ち無沙汰にならなくて良いでしょうから」
「あ、ありがとうございます!」
「……とは言え、ディアナさん。貴女はまだこの領地に来たばかり。本日いきなり仕事に入るよりも、まずはカイさんと共に暫くこの街や街の周辺を廻られた方が良いでしょう。その方が、領地を把握できる筈です」
「承知致しました。……あのー、お気を悪くされたら申し訳ないのですが、クリスティンさんは名家の出身の方なんですか?」
私の質問に、珍しく首を傾げる。
「いや、だって……若い方なのに、領政会の議長と企画の部長さんを勤められていると仰っていたので……」
クリスティンさんは、コロコロと笑った。
「まあ……若い、だなんて。多分、ディアナさんの倍は生きていますよ」
「えっ!?」
み、見えない。
クリスティンさんの見た目は、私と同世代……二十代後半から三十代前半だ。
けれども、嘘を言っているようにも見えない。
「役職が世襲制かってことを聞いているんだったら、違うぞ。確かにこいつの家は、アルトドルファー伯爵領ができた当初から代々領主に仕えている家だから、名家っちゃあ名家だが。……現にこいつの爺さんは防衛部に勤めていたし、父親は商人だ」
「はあ……そうなんですね」
「では、ディアナさん。いつからでも良いので、準備ができましたら私のところに来てください」
「はい!」
そして私は、カイさんと次の場所に向かった。




