執行官は、謝る
支度を終えると、ベティーナの案内で使用人が集まる部屋に向かった。
使用人専用の部屋と聞いたけれども、そうとは思えないほど立派な部屋だ。
貴族が使う応接室と考えれば装飾品が一段二段劣るものの……商店の応接室と言われても頷けそうなレベル。
……改めて思ったけれども、アルトドルファー伯爵の財力ってどれ程なのだろうか。
普通、こんな立派な部屋を使用人たちに与えないだろう。
ふと、カイさんが目に映って考えることを止めた。
「おはようございます、カイさん」
「あー、おはよ」
「……昨日は面倒をかけてしまい、申し訳ございませんでした」
頭を下げつつ、謝罪の言葉を口にする。
どんな表情を浮かべているかは分からないけれども、確かにカイさんの方から溜息が聞こえてきた。
「顔を上げろ。……謝罪は不要だ」
「ですが……っ」
「ああなることが分かっていたからこそ、俺は付いて行ったんだよ。そんでそれは、お前のためじゃねえ。アマーリエさまのためだ。アマーリエさまに迷惑がかかってないから、別に俺としちゃどうでも良い。だから、謝る必要はねえ」
「……カイさんが気にしなくても、カイさんに迷惑をかけた事は事実です」
「はー……めんどくせぇ。なら、お前の謝罪は受け入れる。そんで、他に用件は?」
「ええっと……他は、特にありません」
「……カイくーん。そんな不機嫌そうな顔をしない。ホラ、ディアナが困っているよ」
カイさんの後ろに立っていたベティーナが、ソファーに座る彼の覗き込むように腰を屈めながら言った。
「おまっ……近えよ、ベティーナ」
「あははーごめんごめん。でも、ホラ。私、沈んだ空気って苦手だからさ」
「もう良いから離れろよ」
「おおっと、ごめんごめん。それにしても、カイ君。さっきジークフリードさんに呼ばれていたけど、それが不機嫌の原因?」
「別に、不機嫌じゃねえよ。元々こんな感じだ」
「あはは、でもジークフリードさんに呼ばれたってことは否定しないんだ」
「別に知られて困ることじゃねえし。ディアナを観光に連れて行けって」
「ふーん、ディアナをねえ。ああ……そっか。だからさっき君は、ディアナに用件を聞いたのか」
「そーゆーこと。……アマーリエさまの願いだってジークフリードさんは言ってたし、受けるしかないだろう?」
「それはそうだねぇ」
当の私が会話に参加していないのに、カイさんとベティーナでどんどんと話が進んで行く。
そんなことを考えていたら、ふと、ベティーナと目があった。
「良い機会じゃないか、ディアナ。シャリアンデの観光を楽しむと良いよ」
「え、しかし……私は執行官として……」
「良いじゃん。執行官って、その領地を把握することでしょ? だから、視察ってことで観光を楽しんで来れば良いよ。……それに、アマーリエ様は夕方にならなければ目が覚めない。それまで、君は手持ち無沙汰になってしまうだろう?」
「それは、そうですが……」
「ほら、さっさと行くぞ」
私が否定する前に、カイさんは出て行ってしまった。
仕方なく、私は彼について行くようにして外に出たのだった。




