黒薔薇姫は、お茶を飲む
それから私は、ジークフリードとヴォルターと他愛もない話をして時間を潰した。
久しぶりに会ったからか、どれだけ話しても話題は尽きない。
「……ディアナとカイがまだ来ないけど、何かあったのかしら」
ふと、疑問を口にする。
二人と話し始めてから、結構な時間が経ったけれども、未だ二人の気配すら感じられない。
「んー……カイがいるから、大丈夫だと思いますよ? 大抵の魔獣相手なら、負けないでしょうし」
ヴォルターの言葉に、私は苦笑いを浮かべつつ肯く。
「カイの実力を疑ってはいないわ。むしろ私が心配しているのは、急にディアナの体調が悪くなっただとか、転んで怪我をして動けないとか、そういったこと」
「後少し待ってもいらっしゃらなければ、捜索致しますよ」
「ありがとう、ジークフリード。申し訳ないけれども、お願いね」
「……それにしても先程から話を聞く限り、随分と、その執行官を気にかけているようですね」
「あら、そうかしら?」
「ええ。……何か、あったのですか?」
「これといった理由は特にないのよ。折角王都から来たのだから、楽しんでねっていうだけ」
「はあ……」
私の回答が腑に落ちなかったのか、二人とも何とも言えない表情を浮かべている。
「だって、究極的にはどうでも良いことだもの。王都がどう考えているだとか、どう動いているかだなんて。……彼女を受け入れたところで、私が得られるものは何もない。むしろ、面倒なだけ。何より、この領地に派遣されたところで、彼女にとって良いことなんて一つもないじゃない? だから、受け入れる気なんてなかったのよ」
「それでも、お考えが変わったのですか?」
「ええ、そう。彼女の態度から察するに、もしかして新しい王はこの伯爵領の成り立ちをよく知らないのではないかしら? それなら、なるべく波風を立てたくないとも思ったの。邪魔をする人は少ないに越したことはないから」
「つまり、王都側の人間に付け込まれないよう王さまの命令で派遣された彼女を受け入れただけってことですか?」
「ええ、そうよ……ヴォルター」
「なるほど。受け入れた上で、余計な争いを生まないよう彼女のことは面倒を見る。……そういうことですね」
「ジークフリードの理解の通りよ。まあ……強いて言うと、こちらが面倒見なくても良いとは思ってるわ。適度に遊んで休んで貰えれば、それで良いでしょう」
「ああ、なるほど……」
「ただ、彼女に肩入れしている面があるのは否めないわ。……さっきも言った通り、彼女にとって何一つ良いことはないのだもの。暇過ぎて何もすることがないでしょうし、彼女のキャリアにとってもマイナスだわ。だから、流石に申し訳ないとも思わなくもないのよね」
「それで観光ですか。……彼女にとって見るべきものは沢山あると思いますよ。それこそ、領都ですら」
「ええ? 王都から来た子なのに?」
「だからです。アルトドルファー伯爵領は王都を含め他領と全く交流がないからこそ、独自の発展を遂げています。王都側の人間にとって、目新しいものが多くあるかと」
「ああ、なるほどね……」
アルトドルファー伯爵領は、王都を含め他領との交流をしたことが全くない。
それこそ、建国当初からだ。
それでもこれまで問題にならなかったのは、マルクベルス王国が建国した当初の取り決めのおかげ。
「待たせてすいません」
丁度そのタイミングで、カイが部屋に入って来た。
「あら、カイ。お疲れ様。ディアナは……あらあら」
ディアナはカイに担がれていた。……それも、肩に乗せるような形で。
「そんな荷物を持つような運び方は、流石に気の毒だわ」
「……アマーリエさまの命令だから面倒を見ただけで、正直コイツがどうなろうとどうでも良い。だから、気を使うつもりも全くないんですよ」
バッサリと、カイに切り捨てられた。
「……まあ、もう今更ね」
私は溜息を吐きつつ、彼女の様子を見る。
意識は失っているようだけれども、それ以外異変は見受けられない。
「そのまま彼女を運んで、客室のベッドに寝かせてあげて」
「了解です」
ディアナを運ぶカイを見送った後、私は再びヴォルターとの会話を楽しんだ。




