執行官は、叫ぶ
「ぜぇ、ぜぇ……一体、どうして……」
喋る余裕なんてないけど、それでもどうしても聞かずにはいられない。
「どうして、アマーリエ様はあんなに速いんですかぁー!」
叫ぶことに体力を使ったせいで、スピードが落ちる。とは言え、私の前を走るカイさんからしたら誤差の範囲だろう。
何せ私がこんなにいっぱいいっぱいな状況だというのに、カイさんは汗一つかいていないのだから。
「ほれ、休むぞ」
カイさんはそう言いつつ、止まった。
「いえ……ぜぇ。アマーリエ様に追いつかないと」
「お前のスピードじゃ、無理だろ」
「ですが……護衛……」
街と街を行き来する場合、護衛は必須だ。
治安の悪い場所であれば野盗が現れることもあるし、そうでなくとも人を襲う『魔獣』と呼ばれる獣が現れるから。
「あの人に、そんなのいらねえよ。大体、この街道に魔獣が出ることなんて滅多にない。あったとしても、前を行くアマーリエさまが殲滅しているよ。だから、俺は護衛として一緒に来たんじゃねえ」
「それなら、何故……」
「あー、もう、つべこべ言わずにさっさと休め。こんな中途半端なところでお前が動けなくなったら、面倒だ」
「……では、お言葉に甘えて」
悔しいけれども、何にも反論ができない。
事実、私がいなければカイさんに休憩は必要ないのだから。
木に寄りかかり、体を休める。
段々と、荒い息が落ち着いていった。
「……ご迷惑をおかけし、申し訳ありません」
「お前がアマーリエさまに付いて行けないことは分かりきったことだから、謝罪はいらねえ」
「……どうして、アマーリエ様はあんなに速いんですか……。というか、そもそも、何故護衛の一人つけずに……」
「無駄口叩いている暇があったら、休んでおけ」
「……はい」
それから、体を休めることに集中した。
それまで意識が朦朧としていた状態だったけれども、段々と解消されつつある。
「……アマーリエさま、何で身体能力が高いのか。何で、護衛が必要ねえのか。そんなの答えは決まっている。アマーリエさまが、アマーリエさまだからだよ」
私の状態を見計らっていたかのように、カイさんが口を開いた。
けれどもその言葉は、私の質問に対して全く答えになっていない。
「だから、それはどういう……」
「……つうかお前、アルトドルファー領の成り立ちを知らねえの?」
「王都で確認しましたが、建国当初から存在する由緒正しき家門としか……」
「……ああ、なるほど」
カイさんは再び溜息を吐いた。
いつもは彼が溜息を吐く度に苛立ちを覚えるけれども、今は全くそんなことがない。
むしろ、私の準備不足をありありと見せつけられるようで、居心地の悪さを感じるばかりだ。
「……アルトドルファー伯爵領が面しているのは、単なる国境じゃねえ……魔獣が多く出現する『黄昏の森』だ」
「それは知っています」
「なら、分かるだろう。そんなアルトドルファー伯爵領を治めるアマーリエ様が弱い訳ないって」
「つまり、アマーリエ様は対魔獣討伐の為に鍛えていると?」
「まあ、そんなところ」
「なるほど……」
「お前、国軍出身なんだろう?」
何を今更と思いつつ、肯く。
「ええ、そうです」
「……んでもって、執行官に選ばれるんだ。それなりに実力があるって、認められているってことだろ?」
けれども、次の問いには肯けなかった。
ただ、走っただけ。けれどもそれでこれだけ差を付けられてしまえば、自分が優秀だなんて自惚れられない。
「……ま、答えなくても良い」
返答に困る私の内心を見透かすように、カイさんが口を開いた。
「こうなることは、分かってた。お前じゃなくても、誰が来たって同じ状況になっていただろうよ。……ホラ、そろそろ休憩は終わりだ。さっさと行くぞ」
「……あの、こうなることが分かっていたとは?」
「自分の目で確かめなきゃ、納得しねえだろ? いずれ、分かるだろうよ」
カイさんはそう言って、進み始める。
私はそれ以上問うことを諦めて、走ることに集中した。




