執行官は、悩む
……信じられない。
頭の中がその言葉で埋め尽くされていて、ちっとも働いてくれない。
冷静になろうと、大きく息を吸う。
「こんなの、一体どうやって報告書を書けって言うの……」
けれども息を吐き出すと共に、そんな呟きが漏れた。
私が着任してから早一週間……アマーリエ様が働いたところを見たことがない。
夕方過ぎに起きてご飯を食べた後、部屋に引き籠る。その、繰り返し。
おかげで監視役の私も手持ち無沙汰で、まさに食べては寝るの生活だ。
二十五年間生きてきて、ここまで暇を弄んだことは一度もない。
このままじゃ、健康に悪い! と、せめてもの思いで、屋敷の周りを散歩しているぐらいだ。
なんて、平穏な生活。
これで国から給料が入るのだから、なんて美味しい仕事……って、違う!
このままじゃ、私は私に顔向けができない。
国から給料を貰っている以上、与えられた仕事は全うすべき……というのもあるけれども、そんな綺麗事のような理由だけではなかった。
単純に……私が憧れ夢見た執行官の姿を、私自身が汚すようで嫌だったのだ。
……他人が聞いたら、「え、そんなこと?」と思うかもしれないけれども、私にとってはそれが至極大事なことだった。
自分で言うのも難だけれども、執行官の制度を新たに設立すると聞いた時から、執行官になりたくて努力を重ねてきた。
最初は、単にお金が欲しいだとか、今後の出世の為に……という理由で飛びついたのだと思う。
けれども選抜課程を飛び越える度に、その壁が高ければ高いほど、自分の中での執行官への憧れがより純粋に、かつ大きなものへと変化していった。
壁を乗り越えてきたからこそ、今の私の状況は、過去の自分の努力だとか思いを踏み躙るような行為のような気がして。
……とは言え、だ。本当に、報告書に書くべきことが何一つない。
強いて言うなら、アマーリエ様が何もしていないことぐらいだ。
「ふぁ……おはよう」
そうこうしているうちに、夕方になっていた。