一蹴
屈強な男達が、一斉にローラ・アテナ・おばあに向けて走り出す。周囲を取り囲まれるていたため、3人は全方向からの攻撃に対応しなければならないはずだ。ガルフはローラの反撃を警戒したが、部下によって視界が阻まれローラ達が見えなくなった。
(見えはしねえが、これで負けるワケがねェ……!!)
数の力が戦闘においてどれほどモノを言うかを、数々の組織を喰い潰して来たガルフは痛いほど知っている。あの女装男が非現実的な武力を持っていることは彼にも分かったが、どれだけ強いと言っても所詮は1人だ。しかも牢に入った満足に立てない老人と貧弱な子供という足手まといまでいる。
彼は集めた部下で侵入者達を囲わせ、奥の手として全員に常備させていた戦闘用ドブル覚醒剤まで飲むよう指示した。今のガルフファミリーのほぼ全ての戦力を全て投入したと言っても過言ではなかった。
元々戦闘訓練を積ませてある上に、筋力増量と痛みを無効化させるドブル覚醒剤を飲ませたのだ。より攻撃的になるような薬も混ぜてある。そんな奴らが、40人以上で袋叩きにしようと言うのだ。どう多く見積もっても部下達の半分以上が戦闘不能になる前に、3人の息の根を止めることができるはずたった。
そう、ガルフが考えた時だった。
それは一瞬の出来事だった。
アテナとおばあが投げ飛ばされ、檻もろとも空高く舞った。ガルフとその部下達は一瞬その2人を目で追った。その刹那の間に、ローラは地を這うような足払いを放った。空中から見ていた女性2人からは魔力が円を描くように放出されたのが見えた。生木の折れるような音にハッとしたガルフが視線をした時には、部下は1人残らず倒れていた。
「はぁ…………?」
ガルフは目の前で何が起こったか理解が追いつかず、喉から惚けた声が出るのを抑えられなかった。
「ヨイショ〜!2人とも、大変失礼しましたぁん!」
「ローラ、メチャクチャすぎ…」
「し、死ぬかと思ったわい……」
フワリと音もなく2人は着地していた。まるで羽毛の山に飛び込みかのような柔らかさだった。ローラが魔法で2人の落下を優しく受け止めたようだ。
「お、お、オマエらァ!いつまでも寝てねェで起き上がれェ!!」
「そ、そ、それがお頭…」
「痛くないのに、立てないんです…」
我に帰ったガルフは部下達を焦って怒鳴りつける。しかしその叫びも虚しく、組員たちは地面の上を腕を使ってモゾモゾと這っているだけだ。
この場で立っているガルフファミリーはもうボスであるガルフだけになってしまった。何事もなかったかのよう最初からその場を動いていないローラを見て、流石にガルフもその異常性を無視せざるを得なくなった。額からは滝のような汗が噴き出している。
「テ、テメェ!!何しやがったァ!!」
「何って、全員の足を粉々に蹴り砕いただけよぉ?痛みを感じなくても歩けなくなるまで念入りにね。文字通り一蹴って感じぃ?アラヤダ!親父クサかったかしらぁん!!」
「あ、あり得ねェ!!40人以上だぞ!?オマエの足が届くワケねェ!!!」
ガルフが痩せ我慢で声を挙げるが、その体は尋常ではない程身震いしている。口では言っていても、もう分からされているのだ。ローラの言っていることは本当なのだと。
「魔法で蹴りに<範囲の拡大><威力の増幅><対象の集中>の効果を掛けたわぁ。アタシって体は男だけど魔法使えるのよねぇ〜。こ・ん・な・ふ・う・に」
パチン。
ローラが指を弾く。するとカシャン!という音と共におばあが入っていた牢の鍵が外れ、1人でに戸が開く。ローラは一国の女王に対するが如く優雅に膝をつき、檻から出てくるおばあの手を引いた。
「お助けに上がりました、ご無事で何よりです。私、ローラと申します、以後お見知り置きを、おばあ様。」
「あ、ああ……!ありがとうねえ……!」
「おばああーー!!!よかったよぉぉぉおお!!」
「心配をかけてすまなかったねえ、アテナ……」
ゆっくりと、無事に解放され立ち上がったおばあをアテナが強く抱きしめる。涙を流しながら顔を擦り付ける少女と、優しい笑顔でその少女の頭を撫でる老女。血は繋がっていなくても、彼女達は確かに、家族だった。
「………ざけやがって。………フザケやがってぇェエ!!お前が来なければ全てうまく行って他のによォオオ!!」
その一部始終を見ていたガルフが突然金切り声を上げる。懐から何か瓶を取り出し、中に入っていた薬を狂ったように次々に飲み込み始めた。最後もやはり、今回の事件の引き金であるドブル覚醒剤であった。
しかし何かに気が付いたおばあが、血相を変えてこう言った。
「いかん!!オーバードーズじゃ!!それ以上飲むでない!!!さもなくば」
「ゥゥウウウオオオ"オ"オ"オ"オ"オ"…………!!!」
ボキ、バキボキ、ミシミシミシ、ボキ、バキッ……!!
薬を飲んだガルフの体が生々しい音を立て変貌を遂げる。体は痙攣し、骨があり得ない角度に曲がり、ありとあらゆる筋肉が膨張し、まるで魔獣のような様相を呈した。
「遅かったみたいねぇん……!」
「おばあ…ナニアレ……!」
「一度に大量のドブル覚醒剤を飲むとああなるんじゃ……。もうあやつに理性は残っておらぬし、死ぬまであの状態が続くじゃろう……。気の毒に……。」
ク"ゥ"ゥ"ゥ"ゥ"ウ"ウ"ア"ア"ア"ア"オ"オ"オ"オ"オ"オ"!!!!
筋肉の化身と化したガルフ。しかし誰が敵かは認識しているのか、全力で疾走し始めた。その瞳は獣のようで、知性の光は宿っておらず、もはや二足歩行ですらなかった。両手両足を使い目にも留まらぬ速度でローラへ肉薄するガルフ。鋭く生えた牙を突き立てんと、彼の眼前にまで迫っていた。
お読み頂きありがとうございます!
次回、vsガルフファミリー ついに決着!アテナの兄弟子も登場予定です!!
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