突撃
お久しぶりです。再開します。
「さぁ!行くわよぉアテナちゃん!!舌噛まないでねぇん!」
「行くわよって、ちょっと何して、きゃあああああああああ!!!」
ローラはそう言うとアテナをひょい、とお姫様抱っこのように抱えてて信じられない速度で走り出した。さっきまでいたスラム街から一瞬で大通りまで戻ってきた。ちなみに、ガルフファミリーの下っ端はそのまま縛られたまま取り残された。ローラの知ったことではない。
「ソーホー街ならこっちが近道ねぇ!!」
「ウソでしょおおおおおおおおおおおおおお!!!!」
ローラがそう言って建物の前で、グッ、と体を沈めたかと思うと、今まで横に流れていた景色が次は縦に流れた。ローラがジャンプしたのだと気付いたのは下町の町並みが眼下に、晴れ晴れとした青空が目の前に広がったからであった。
「何メートル飛んでるのよおおおおおおおおお!!!!」
「屋根走って行った方が早いのよぉん!」
スラム暮らしで痩せていることを加味しても、アテナの体重は30kg以上はある。それにも関わらず、まるでソファで横になっているかのように揺れのない状態でアテナは抱えられていた。しかもその状態で屋根から屋根へと移動しているのだ。今まで経験したことのない速度で縦横無尽にローラが動いたため叫んだが、絶対に落ちたりすることはないと確信できるほど安定していた。どれだけ筋力があり、かつ体の動かし方が分かっているのだろうか。やはりローラは男なのは間違いないと思われた。
「ソーホーが見えてきたわぁん!!」
(ほんとにローラって何者なの……)
アテナが少しこの移動に慣れてきた頃にはもうソーホー街に到着していた。工場や倉庫が立ち並ぶソーホー街。土地柄、繁華街からは離れた場所にあり、徒歩で普通に街道沿いに移動したら1時間はかかるところを、ローラは10分ほどで到着した。
「奴らのアジトは分かるのー!?」
「仕事柄そういうのは把握してるわぁ!着くわよぉ!!ーーーーーよいしょっとぉん!!」
着地しようとしているのは何の変哲もないような倉庫だった。ただ、周囲に人気はなく、ならず者達が身を隠すにはもってこいの静かさと広さである。薬の売買もしているというのだから、保管や密売にも都合がいいのだろう。ローラは、フワリ、と、ある建物の前で着地した。着地まで振動のない、この世のものとは思えない身のこなしである。
「ここが……」
抱っこ状態から降ろされたアテナが建物を見てゴクリと喉を鳴らした。ここには人に危害を加え利益を貪ることを何とも思わない悪魔のような人間達と、そいつらに捕まったおばあがいるのだ。スラムで育ち裏の人間の怖さをよく知っているアテナが緊張するのも無理はない。
「時間がもったいないわ。乗り込むわよ。アテナちゃんは私の後ろに付いていてねぇん。……アラ。鍵がかかってるわねぇ。意味ないのにぃ。お邪魔するわぁあん!!」
何の躊躇いもなくドアを蹴破り開けて中に入ったローラ。すると入り口のすぐ内側には組織の一員らしき、ドアの出入りを監視していたであろう男がいた。筋骨隆々の男はローラを見るや否や立ち上がりこちらに近づいてきた。手には大振りなナイフを握っている。
「何だァ?おま」
「お黙り!」
コツン、という音がした。アテナのすぐ側にいたローラは、又しても目にも止まらぬスピードで見張りの男の懐に入り、男の顎を撫でるかのように裏拳で打ったのだった。見た目には軽く腕を振ったかのようにしか見えなかったが、男はそのまま気絶して倒れこんだ。
「スゴ……」
「突撃よぉん!!!着いてきてぇん!!」
そういうとローラはアテナでも着いていけるくらいのスピードで走り始めた。見張りの男がいた小さな部屋を抜けるとすぐに倉庫のような大きな空間に出た。アテナの身長ほどもある大きな木箱がブロック状に組み合わさって積み上げられている。見ただけで中身の検討がついたローラは、眉をひそめざるを得なかった。
(コレ、これ全部武器とか薬とか、違法なモノばっかりじゃない。ガルフファミリーが仕切れる物量じゃない。……本当にこの件、きな臭いじゃすまなさそうねぇ……。やれやれ、アイツ呼ばないと……。)
一つだけでも衛兵が大騒ぎするような箱が、見上げるほど高く積み上げられ、まるで迷路のようになっているのだ。
「ラチが明かないわ」
パチン!
と、ローラが指を鳴らし、路地裏で使ったものと同じ魔法を使った。魔力の膜が倉庫全体に広がり、数人の男達とぐったりしている高齢の女性の姿を捉えた。
「いたわ!着いてきて、アテナちゃん!」
「うん!!」
(待っててね、おばあ……。今、助けに行くからね……!)
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