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少し短めです。

 

「アテナちゃん………」


「おばあ……!おばあぁ……!!」


 アテナは地面に伏して泣きくれている。それもそうだろう。たった1人の家族であり恩人である人が、自分を食べさせる為、盗みを辞めさせる為に、激痛に耐えながら身体を無理やり動かしていた事を知ったのだから。


 ローラが、フゥー…と腹から空気を吐き出した。


「アテナちゃん!!!!聞きなさい!!!!!」


 ビリビリビリ!!と、家全体が揺れた気がした。あまりの声量に掘っ建て小屋が壊れそうであった。いつも飄々としてたローラからは想像もできないほど真剣な声音。アテナはローラの方を向いた。


「アナタにはね、同情するわ。だけどね、大事なのはここから先の話なの。何故私がおばあ様の身に危険が迫っていると言ったのか、分かるかしら。」


 ローラがアテナに語りかける。アテナも、ただ泣きじゃくるだけでは現状を打破できないと分かった。


「ドブルの葉は多分、森でも取れるかもしれない。もしかしたら、おばあ様は栽培もしていたかも。私にはどうやって定期的に入手していたのかはハッキリとは分からないわ。だけどね……」


「うん……」


 ローラが、ピッ、と人差し指を立てた。


()()()1()()。最初の1回分のドブルの葉は、必ず他人を使って調達してきたはずなのよ。」


「あ……!」


「おばあ様は怪我した後、ほとんど満足に歩けなかったのでしょう?ドブル覚醒剤を使って森に行き、次に使う分のドブルの葉を採取したとしても、栽培するにしても、最初の1回だけは他人を頼らざるを得ないはずよ。ドブルの葉は所持しているだけで捕縛の対象となる。アナタ1人を残すリスクを考えれば、元々常備していたと考えにくいの」


「確かに……」


 ローラの予想は当たっていた。ドブルの葉の悪質な生態の1つとして、その繁殖力の強さと分布の広さが挙げられる。グストンの森にも、ドブルの葉が育つ条件が整った場所があった。森のある限定的な目立たない部分に自生するため、誰も気付いていなかった。しかし、何十年も森で薬草を積んでいたおばあは、何処にドブルの葉があるのかを知っていた。


「ドブルの葉なんか、冒険者ギルドにも採取の依頼を出せるわけないわ。そんな事したら、依頼した時点で捕まってしまうもの。だからおばあ様は、非合法な組織にその採取を依頼したはず……」


「そんな……」


「そして、ドブル覚醒剤は材料は調剤するのに特殊な技術が必要なの。豊富な薬学の知識と、経験・技術、それと最も大事なのが、精密な魔力操作……これら全てを兼ね備えた薬師しかドブル覚醒剤を作ることは出来ないわ」


「そのまま、おばあだ……」


「そう。だから、ドブル覚醒剤を作れる薬師は、裏のヤツらからしたら貴重な人材なの。材料は簡単に入手出来るから、作れば作るだけジャブジャブ儲かるわ。攫ってでも自分の手元に置いておきたいのよ。多分、おばあ様は最初にドブルの葉を入手する時、足がつかないように慎重に手を回したはず。だけど、半年の間で、それがバレた。」


「ドブルの葉を探してる人がいたって事は、ドブル覚醒剤を作れる人もいるって事だもんね……」


「そういう事よ。そして今日は---神創日でしょう。4年で1番、この辺りの警備が薄くなる日よ。警備の人間も、広場の方に割かれるの。ちょっと騒ぎがあっても、誰も気にしないわ。たぶん計画的な犯行ね……」


「じゃあ、どうすれば……。おばあは、どこに……!」


 アテナは途方にくれた。スラムに10年以上住んでいるアテナだ、裏の人間がどれだけ強大な存在かは痛いほど分かる。おばあを取り返すためにアテナ1人が乗り込んでも、いかにアテナが魔法の才があるとはいえ、確実に返り討ちに遭う。


 そんなアテナの様子をみたローラは、アテナの前で膝立ちになり、アテナに目線を合わせた。小さく震えるアテナの頭をそっと撫で、こう囁いた。


「今までたった2人で生きてきたものね。心細かったでしょう?こんな所だから、信用できる人もいなかったでしょうね……。でもね、今日だけ、ワタシを信用してくれないかしら。アナタが弟子になると決まった訳ではないけど、ワタシはアナタと、アナタのおばあ様を守りたい。アナタ達みたいな家族が、こんな理由で引き裂かれるなんて私は許さないわ。……こんなワタシだけど、力だけは自身があるの。助けを要請して頂戴。」


アテナは、初めて感じる、不思議気持ちになった。自分には両親はいない。故に、母性も父性も感じた事は無い。なのにローラにはそのどちらも感じたのだ。もし母がいれば、この様に優しく慰めてくれただろう。もし父がいれば、この様に私達を守ると言ってくれただろう。そんな、母と父のどちらからも愛されている様な、陽の光を浴びる様なじんわりと暖かく、何故だか安心する様な、そんな気持ちなった。


 アテナは腕で強引に涙を拭いた。腕をどかした後にはもう、いつもの勝ち気な、溌剌とした顔があった。


「ローラ!おばあを……たった1人の私の大事な家族を、助けて!!」


「はぁい、もちろんよぉ!」


 これまでの様にのんびりとした口調に戻ったローラは、パチリ!と音が聞こえそうなほど大きなウィンクをして、すっくと立ち上がった。


 アテナは、ゆっくりと扉は向かったローラの背中から、大通りで対峙した時とは比べ物にならない程の闘気を感じた。それを見たアテナは、おばあが無事助かる事を確信した。

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