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魔王の娘


(魔王の一人娘だって??)


 この少女は、確かにそう言ったのか?

 もしくは、俺の聞き間違えだったのか。


 あまりにも予想外すぎる答えに、理解が追い付かないでいた。


 何も応えず呆然としている俺に、リリスは不安に思ったのか。

 俺の耳元に顔を近づけ、再び自己紹介を始めた。


「あれっ、勇者様聞こえてなかったですか?!あの、私、魔王サタンの一人娘のリリスです!」


「ちゃんと聞こえてるよ!耳が遠いわけじゃないから!」


 俺は、誤解を解くように言った。

 しかし、これではっきりしたな。

 リリスが魔王サタンの一人娘と名乗ったのは、聞き間違えではなかった。

 そうか、魔王の娘か……。


「って、魔王の娘ってなんだよっぉぉ!!」


 何かヤバい気がするぞ。

 これ以上、この子に関わってはいけないと第六感が訴えかけている。

 困ったことに、リリスが冗談を言ってるようには全く見えないのだ。

 本当に魔王の娘である可能性が高い気がする。


 それに、もう分かってきたんだ。

 

 俺が、異世界にやってきてから、こんな展開ばっかりだ!

 ことごとく期待は裏切られ、希望が見えなくなっていく。

 いっそ何かの呪いや嫌がらせだと言ってくれた方が、すんなりと納得できる。


 俺が突然叫び出したことで不安を感じたのか、リリスは困惑していた。


「あの、勇者様?……」


「いや、ごめんよ。何でもないよ」


 俺はやや半笑いになってしまったが、なんとか取り繕って平静を装う。

 リリスが魔王の娘かどうかという真偽はこの際置いておこう。

 もし、それが真実で複雑な事情があったとしても、リリスの困っている顔を見てしまった以上、もうほっとくことはできなかった。

 あまりこれ以上詳しく聞きたくはないが、続きを聞いてみることにした。


「それで魔王の娘様が、何の用があって、俺を探してたんだ?」


「あの、魔王の娘は、恥ずかしいので辞めてください。リリスと呼んでください……」


「分かったよ、リリス。俺は西見玲人。レイジでいい」


 魔王の娘を名前で呼ぶなど、恐れ多いが本人がそういうなら仕方ない。


「それで?」


 俺は、リリスに話を続けるように促した。


「実は、私、その、あの……」


 よほど、応えにくいことなのか、リリスはバツの悪そうな顔をしていた。


(やっぱり、よほど複雑な事情があるんだな……)


「私、い、家出をしたんですっ!!」


「なんだ、それは!!」


 森の中までレイジの声が響き渡った。


「あの、その、す、すみません……!」


 また、大きな声を出したことでリリスを脅かせてしまった。

 リリスは、半泣きになって謝っていた。


「いや、そういうつもりじゃあ……」


 自分より、小さな女の子を泣かせてしまうなんて、すごく後ろめたい。

 しかも、彼女は魔王の娘。

 お父さんに会ったら殺される!


「俺が、悪かったから、泣かないで!」

「もう怒ってないですか?」

「ああ、全然怒ってないよ!ちょっとビックリして叫んじゃっただけだから」

「良かったです!」


 リリスが太陽のような笑みを浮かべた。


(可愛いな!!)


 この少女の可愛さは反則だ。

 別にこれは、ロリコン的な意味じゃないよ?

 本当だよ?

 でも、こんな可愛い少女が本当に魔王の娘なんだろうか。


「それで家出っていうのは?」

「実はですね、リリィのパパ、サタンが職務放棄してしまっているので、それで嫌気が差して飛び出てきたんです……」

「職務放棄!?魔王って働いたりするの?!」

「もちろん、働きますよ!悪魔だってちゃんと働いているんです!人間を駆逐したり、人間を呪ったり、人間をたべたりとその仕事は多岐にわたりますが」

「怖いよ!それなら無職の方がいいよ!」

「で、でもこのままじゃダメなんです!」


 リリスがまた半泣き顔になる。

 父親が働かないことで、何か苦労や辛いことがあったのかもしれない。

 それを思い出したのか、リリスがいよいよグスり出した。


「こ、このままだと……」


「わ、分かったから、泣かないでくれよ……。俺に出来ることがあるなら協力するからさ!」


 とは言ってみたものの、何を協力できるのかは分からない。

 悪魔に職探しをさせるなんて馬鹿馬鹿しい話だ。

 しかも、ただの悪魔ではなく魔王だという。


 それでも、こんな小さな少女に泣かれるのは心苦しい。

 それに、リリスと見ていると、年が離れた妹のことを思い出す。


(ユカもよくこんな風に泣いていたな……)


 俺は、そんなこと思い出して、なんだか懐かしくなった。

 みんな、元気にしているだろうか。

 なんとか、リリスを励ましたいと思っていると、リリスは俺が協力を申し出たことを聞いて再び花が咲いたかのような笑顔になった。


「本当に協力してくれるんですか?!」

「できる範囲内だけど……」

「それなら、勇者であるレイジ様にお願いがあります。パパを、サタンを倒してください!」


「ん?」


 さっきから本当にこの子は何を言ってるんだろう??

 リリスとの会話で、俺の思考は何度も停止させられている気がする。

 自分の親を倒してくれなんて、正気の沙汰とは思えない。


「サタンを討伐してくれっていきなり何を言い出すんだよ」

「え?勇者さまって、魔王を倒さないんですか?!」

「いや、確かに勇者は魔王を倒そうとするけど魔王ってリリスのパパなんだろ?」

「はい!だからこそレイジ様にパパを倒してほしんです!」

「その、だからさ……」


 話が全く噛み合わない。

 確かに、勇者を魔王を倒すものだが、魔王はリリスの父親であるはずだ。

 今までのリリスの様子から考えていても、それが嘘だとは思えない。

 なら、なぜ父親を倒してほしいと願うのだろうか。

 その理由について、リリスはゆっくりと語り出した。


「元々、パパは自分を倒しにくる勇者たちを殺して、その金品を奪って収入を得ていました」

「何か無茶苦茶だな……」

「でも、最近仮想通貨ってやつで大儲けしたみたいで、それから全く働かなくなってしまいました。リリィのママは、そんなパパに嫌気を指して家を出てしまったんです」

「仮想通貨!?お母さんが家出!?」


 もう何からツッコんでいいのか分からない。

 まず、時代設定が無茶苦茶すぎる。

 そして、母親が家出した理由もよくわからない。


「悪魔は、働き者こそ尊敬の対象とされています。今のパパは、本当に駄目悪魔なんです。リリィはパパにもう一度魔王として働いてほしいんです!勇者たちや人間たちから金品を奪い取っていたあの頃に戻ってほしいんです!」

「それは戻らなくていいんじゃない?!」

「そこで、レイジ様には、パパと戦ってもらいたいんです!あの頃のパパに戻るには、強奪や殺戮の喜びをまた味合う必要があるんです!!」

「それ、遠回しに俺に犠牲になれってことだよね?!やっぱり、元の魔王に戻らなくていいよ!」


 さきほど、悲しそうな顔をしていたのが嘘のように、リリスは淡々としていた。

 あれ?

 やはり、俺は騙されていたのだろうか。

 よくわからなくなってきたが、とにかくリリスはサタンに再び人間と戦わせたいようだ。

 そうすることで、母親も帰ってくると信じている。

 本当にそんな上手くいくものかは俺には分からないが。


そして、ここで一つ確認しなければいけないことがあることに気づく。


「リリス、じゃあさっきの悪魔は何だったんだよ?」

「あれは、リリィを魔界に連れ戻しにやってきた悪魔です。執事長の部下だった気がします」

「え……?」


 それってつまり……。

 俺は、魔王の配下に手を出したことになるのではないだろうか。


「じゃあ俺は、本格的に魔王に喧嘩を売っちまったってことか……」


 こうなってしまった以上、もう覚悟を決めるしかない。

 魔王の配下と対峙してしまった以上、いつ次の刺客が来るか分からない。

 そうでなくても、リリスを連れ戻すために命を狙われる可能性だってある。

 そうなる前に、冒険者として魔王の元へ向かおう。

 そして、魔王に会って誤解を解くしかない。

 俺は、娘さんを守っていただけですよ、と。

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